ハイヒールの魔法

「じゃあ普通の質問をしましょうか。俺はグレーが好きです。服は白かグレーばかりで」
「んー……私は白か水色かな。ホッとするというか……」
「なるほど。それなら食べ物はどうですか?」
「食べ物なら麺類が好きです。特にうどん」
「俺も麺類は好きですよ。うどんとラーメンが同じくらい好きかな」
「あとは……夜景とか好きです。私には似合わないかもしれませんが」

 自分よりも高い空を見上げたり、眼下の美しさに目を奪われる時間は、誰もが夜景しか見ておらず、互いに干渉しようとしない空間が好きだった。

「似合うとか似合わないとかは関係ないですよ。俺も夜景は好きです。オススメの場所とかありますか?」
「どうでしょう……。高いところから見る景色が好きかもしれません」

 すると徹平は、再び何かを考えるように目を細めてから、瀬名の方を向く。

「三木谷さん、もし良かったら、タクシーではなくバイクなんてどうですか?」

 徹平の言葉の意味がわからず、瀬名は首を傾げて目を瞬いた。

「えっ、でも私、バイクには乗ったことがなくて……ちょっとよくわからないです」

 戸惑う瀬名だったが、樫村は大きく頷き微笑んだ。

「初めてってことですね。なるほど。それなら俺に任せてください」
「えっ、何を任せるんですか……ひゃっ!」

 返事ができずにいる瀬名の首にストールを巻くと、立ち上がって突然お姫様抱っこをしたものだから、驚いて凍りついてしまう。

「えーっ! だ、ダメです! 重いから下ろしてください!」
「全然重くないですよ。俺、こう見えてずっと水泳やってたんで、筋肉には自信ありますから。怖かったら俺の首に手を回してください」

 お姫様抱っこなんて、生きてきて初めての経験なんだけど! ──瀬名の気持ちはお構いなしに、徹平は歩き出して公園の外に出た。