ハイヒールの魔法

「なんですか?」
「いえ、どうして避けるのかなと思って」
「それは……、男性と一緒にいて、いい思いをしたことがないからだと思います」

 彼は妙に納得したように頷くと、月しか見えない空を見上げたので、瀬名もつられて顔を上げる。

 空には星の瞬きは見えず、ただ暗闇だけが広がっていた。

 まるで私の心の中みたい──希望の光が見えない自分と重なって見えた。

「逆に恋愛を始めたくても、スタート地点にすら立てない俺みたいな奴もいますけどね」
「そうなんですか? こう言ったら失礼かもしれませんが、すごく……可愛らしいお顔立ちですよね。アイドルっぽいといいますか」
「遠回しに言ってくださってありがとうございます。要は童顔で、身長も165センチ。なかなか恋愛対象にしてもらえません」

 瀬名とは正反対の理由だったが、受け取る感情は同じに思える。どうしようもない理由であしらわれ、自分の感情が蔑ろにされる現実は、誠実に生きようとする人を卑屈にさせるのだ。

「あぁ、だから憎らしいって……」
「マッチングアプリで初めて会う人は大抵『思っていたより目線が近い』って、遠回しに身長のことを揶揄してきますから」

 寂しそうに笑う男性を、他人事のようには思えず、思わず唇を噛む。

「えぇ、でもそれだけじゃないんですよね。趣味がバイクとか言うと、『見た目に反して』とか、『じゃあお一人でどうぞ』とか言われるんです」
「えっ、それはショックですね」
「だから三木谷さんの気持ち、なんとなくわかります。俺も異性といていい思いをしたことがないので」
「じゃあ私たち、似たもの同士ですね」

 瀬名がそう言うと、二人は微笑み合う。先ほどまで感じていた怒りや苛立ち、二人の間に立ちはだかっていた壁が消え、同志と向き合っているような感覚に陥る。

 この人ともう少し話してみたい──そう思った。