「なぁ、お前さ」


前を歩く荘がぶっきらぼうに吐き捨てる。


「いつになったら彼氏作んの?」


はぁ。


そんなのわかるわけないでしょ。


だから、現に遊び人になってるってわからない?


「……じゃあ、あんたは?」


「作らねぇ」


はい。そーですよね。あんたって人は。


ずっと遊び人ですよね。


「好きな奴いるから」


へぇ。意外。


結構一途なタイプなんだ?


「その割には遊んでるようで?」


わざと煽るように毒を吐いてみた。


「お前に言われたくねぇな」


意味わかんない。コイツ。


素直になってみればカワイイのに。


「女をなんだと思ってんだか」


「使い物」


はー最低。


そりゃ私だって同じ遊び人だけどさ。


「初恋とかあんたには無いわけ?」


「ある」


へー意外。でもその子かわいそ……。


あれこれ言い合ってるうちに当の目的、資料室についてしまった。


二階から三階までは遠回りなので結構時間がかかる。


「おーお前らありがとなー助かるよ、なっ逢沢!」


通りすがりの先生が笑顔で笑いかけてきた。


はい、なんで私なのよ。


つくづくツイてない。


「やるぞ」


人に言う前に自分でやれば?といいかけた言葉はつぐむ。


逆らってはいけない。


言われた通り分厚い資料を棚に押し込んでいく。


「なぁ、お前さ。ヤってるんだろ?」


わかりますよ。意味くらい。


なんでそんなことわざわざ聞いてくるわけ?


「……それが何?」


やらしーことですよ。


でも、相手だって私のことは遊び人なので。


傷つくことも傷つけることもないわけ。


「いい加減やめようとか思わないわけ?」


イラッとして勢いよく振り返る。


そこにはドアップの荘のカオ。


「何?」


「さすが。動揺しないんだ?」


するわけないでしょ。


幼馴染でただでさえ二人して慣れてるんだから。


あんたが楽しんでることくらい一緒にいれば嫌でもわかるっつーの。


「じゃあ、このままキスしても?」


コイツはヤバい。色々と。


避けようとすると手首が壁に押し付けられた。


「……っ」


ふと昔の荘が頭をよぎった。


思い出した途端、目の前の荘に抵抗できなくなって。


「へぇ。さすが、耐性あるんだ」


そう言ってニヤッと笑ったかと思えば口に柔らかい感触。


目の前には荘のカオ。


やっと離れたと思えば自分の唇をペロリと舐めた。


「………」


………っ…。


キス一つで何こんな動揺してんの、私……。


キスなんて…っ、何にも思わないのに……


――荘だから。


荘だからなんだ。


こんなにドキドキするのも、――もっと触れてほしいって思うのも。


「キス、できるんだ?誰とでも」


…――そんなわけ、ない……。


いや、そんなわけあるか。


いつもしてるじゃん、私。


今更、何を否定しようとしてんの。


「何のつもり?気持ち悪い」


「素直じゃねぇ。じゃあもっとヤる?梨華が動揺するまで」


――昔の荘はもう、いないんだから。


仕方ないでしょ。


今の荘にやられても嬉しくない。


それに、嫌だ。


「やんないし」


「あっそ」


素っ気ない返し。


そう、荘はこんな奴なんだから。


「スキャンダル。やられないの?」


「うまく交わしてるし」


あっそ。


別にこいつのスキャンダルなんてどーでもいい。


どーでもいいのに、なんでこんな………心配してるんだろ……。


私達は幼馴染。


そう、”ただ”の幼馴染。


昔から嫌というほどコイツを見てきた。


だから。そして、それだけ。


「へぇ。心配してくれてんだ?」


素直になれない。


「そんなんじゃないし」


「ほんと素直じゃねぇ」


「そんなことより早くやれば?」


嫌味っぽくそう言い返せばしびれを切らしたように作業に戻った。


「はいはい」


荘なんて…大嫌い、なのに。