「…んー…だから、さ…自分の気持ちに素直になればって話」


自分の気持ち?


小さく息をつくとミラー越しに目を合わせてきた。


「…荘くんへの気持ち」


荘への気持ち……。


…捨てようとしてる傍から言わないでよ。


「…おつかれさまです」


片方のドアが開いて荘が乗り込んできた。


「あ、おつかれ~ありがとね、荘くん~!うちの子まで~」


「…いえ。ちょっといろいろと」


そういうとちらっと私のほうを見たけど気づかないふりをした。


よくしゃべる母は事務所に着くまでずっと何かしら話していてそれにときどき荘が乗り込んできて相槌を打っていた。


…我ながら初めて自分のお母さんに感謝した時間だったかもしれない。


事務所に着くとそれは数年前と変わらず厳重なゲートに警備員さんも数年前と変わらず。


なんだか懐かしくなった。


「…スタジオ、Aだから」


荘はそれだけ言うと準備があるのか行ってしまった。


荘が芸能界入りをしたのは五歳の時。


親も俳優という肩書をもつ荘は才能もあり、最初はキッズモデルとしてデビューし、俳優業にも名を刻んでいた。


――…そう、荘は遠い存在。


ティーン世代、特に高校生に大人気の今をトキメク大人気モデル。


それが荘。そして、私は幼馴染。


たったそれだけの関係。


ああ、バカみたい。


荘なんて、好きになったら辛いだけなのに。


分かっているのに。


――好きなんだ。


きっと、どうしようもなく。


「…―何突っ立ってんのよ」


お母さんが後ろからバンっと背中をたたいてきた。


一瞬よろけそうになりながらもなんとかバランスを保った。


「じゃあ、行くから」


そういうと少し急ぎ気味に走っていった。


はぁ……。


「あっれ~?可愛い子はっけーん!」


そんな陽気な声が飛んできたと思えば後ろには可愛らしい男の子。


???


周りを見るとそこには可愛い男の子含め五人。


「なぁに~?その様子だと僕らのこと知らない感じ~?」


?初対面だよね?


「こー見えて僕たち今をトキメク♡大人気アイドルなんですけどー」


イマをトキメク(♡)ダイニンキアイドル…?


「…?すみません、知らないです…」


「……へぇ。そっか~なんか気に入らないなぁ~」


気に入らないって……


「ねぇ。キミ、荘くんのこと好きでしょ?」


…っ……。


ふるふると首を横に振るとまたしてもふふふ、と笑いが落ちてきた。


「うっそぉ~恋する乙女、だったよ~?」


て、いうかなんで初対面の人に恋愛事情探られないといけないのよ……。


「…実は今日僕たち、荘くんと一緒に撮影なんだよね~だから、ね?見てってよ」


荘と撮影…?


「それと、さ。僕たちのこと覚えてない?」


声色が少し強くなったと思えばそんな言葉。


なにそれ……私、この人たちとあったことなんてないよね…?


「…まさか、それも覚えてねぇの?」


後ろから金髪の男子……めっちゃ荘に似てる……。


「今、ドキッってしただろ?まぁ、荘につくづく似てるもんな」


…っ、なんなのこの人たち。


「まぁまぁハヤト。仕方ないよ、覚えてないんだから。ね?梨華ちゃん?」


……王子様スマイル…。


なんだ、このアイドルグループ。嫌味しか言ってこないの?


なんとかムカつきすぎて出てきそうになった言葉を飲み込んだ。


美形、なのは認めるけどっ!性格が多々難あり…。


「…私、あんたたちのこと知らないし、今日は荘の撮影で…」


「へぇ?僕たちを前にしてその度胸は認める、けどさぁ。どうしてもキミのこと手に入れたいんだよね」


私を手に入れたい……?