『第11話 約束の相手』
◯イルミネーションの街・夜
・外のベンチ。周りはイルミネーションで光り、人も多い。華やかな街の雰囲気の中で、二人だけが少し沈黙している。
・月々と彩月が一つのベンチに座っている。間に少しだけ距離がある。
彩月:「来てくれて、ありがとう」
・月々が少し驚いたように顔を上げる。
月々:「…ううんっ、全然!」
・気まずい表情で、顔の前で手を振り「大丈夫」という仕草。
・少しの間、無言の時間が流れる。イルミネーションの光が二人の間の距離を際立たせる演出。
・月々が横目で彩月を見る。白い息がふわっと出て、周りのイルミネーションが彩月までキラキラさせて見える。
月々(心の声):(さっちゃんは、なんで私に会いたかったんだろう…)
彩月:「月々ちゃんはさ…」
・月々がバッと彩月の方を見る。気まずい表情のまま。彩月は前を向いたまま話し始める。
彩月:「子どもの頃の記憶、どこまである?」
・月々が目を見開き、胸の奥がざわつく。
月々(心の声):(子どものころ…)
・イルミネーションの光の中で、月々の脳裏に記憶がよみがえる。
ナレーション:――シロツメクサの冠と結婚の約束をした男の子。
・管に繋がれながらも笑っている男の子。折り紙をした記憶。病院内でのかくれんぼの記憶。
月々(心の声):(よく考えてみたら、夢に出てくる男の子はいつも普通の服だった…)
彩月:「俺さ、月々ちゃんと会ったの2回ほどしかないんだ」
月々:「え?」
・寒さで顔を赤くした彩月が、月々の方を向いて喋り始める。イルミネーションの光が彩月の横顔を照らす。
彩月:「いつも月々ちゃんと遊んでいる結月のことが羨ましくて、一度だけ勝手に外に連れ出したことがある。それが、シロツメクサの冠の記憶。あのあと、親に怒られたよ。勝手に連れ出すなって」
・彩月が寂しそうに笑う。イルミネーションの光がその横顔を照らす。
彩月:「…俺は正直、結月のお見舞いに来てたというよりも月々ちゃんと会えたらいいなって思ってた。結月は俺がいても、いつもつまんなさそうにしてたし。でもそんな結月が、月々ちゃんといるときだけは笑顔だったんだよ。それは、今も変わっていない」
・月々が目を伏せ、唇を噛みしめる。泣きそうになるのを必死に堪える。
ナレーション:――胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
彩月:「引っ越してからもずっと言ってた。るーに会いたいって。その思いだけで、病気と闘ってきたんだ。子どもの頃に十分辛い思いをしてきたし、これからは結月には不自由なく暮らしてほしい」
・彩月の真っすぐな目が、月々の瞳を揺らす。
・月々の脳裏に、子どもの頃の結月の姿がよみがえる。管に繋がれながらも笑っていた結月。折り紙をしていた結月。かくれんぼで笑っていた結月。
ナレーション:――その笑顔が、今の結月の姿と重なる。
・月々が胸を押さえ、涙をこらえる。イルミネーションの光が揺れて見える演出。
月々(心の声):(…ゆづ)
彩月:「俺は…月々ちゃんのことも大切だけど、やっぱり一番は結月なんだ。だからさ…」
・彩月が月々の両手を包み込む。冷たくて、真っ赤になった二人の手が重なる。
彩月:「結月のこと、幸せにしてやってくんない?」
・今にも泣きだしそうな表情の彩月。イルミネーションの光が涙をこらえる瞳を照らす。
・月々の瞳から、我慢していた涙がポロっと零れ落ちる。
月々:「わたしっ…離れているときもずっとっ…夢にまで、さっちゃんが出てきてたのっ…」
・月々の左手は彩月に握られたまま、右手首で涙を拭う。頬が赤く染まり、震える吐息が白く広がる。
ナレーション:――交差する想いが、夜の光に揺れる。
月々:「結婚しようねってやくそくっ…ずっと会いたくてっ…」
彩月:「うん」
月々:「でもわたし、たぶんねっ…」
月々(心の声):(今日、やっとわかった。多分、違った)
彩月:「子どものころも、今も、月々ちゃんが好きなのは結月でしょ」
・月々が顔をあげると、切なそうな顔をしている彩月。その表情に胸が締め付けられ、余計に涙が溢れる。
・月々の頬を涙が伝う。イルミネーションの光が滲んで見える演出。
月々(心の声):(ずっと、同じ子だと思ってた。子どもの頃の私には見分けがつかなくて)
月々:「でも、さっちゃん…聞いてほしいのっ…」
彩月:「うん」
月々:「大きくなって再会して…一番に好きになったのは、さっちゃんだった…。好きでしたっ…」
彩月:「…やっぱり、過去形なんだ?」
・優しく微笑む彩月に、月々がコクと頷く。涙をこらえながらも、何かを決心したような表情。
・彩月がふっと笑う。イルミネーションの光が二人を包む。
彩月:「大事な弟のこと、頼んだよ」
・走り出す月々。ベンチに取り残された彩月は、自分の手を見つめている。
彩月:「遅かったなー」
・そう言って、手を見ながら笑う。空を見上げると、雪が静かに降り始める。
・イルミネーションの街の中を必死に走る月々。息が切れている。
月々:「はぁっ…はぁっ…」
月々(心の声):(…ゆづ、どこにいる?もう、お家帰った?)
・来た道を戻ると、カラオケの店の外で壁に背中を預け、腕を組んでいる結月の姿が見える。
月々:「…っ…ゆづっ!!」
・月々が走って駆け寄る。結月は少し顔をあげ、走ってくる月々を見つける。イルミネーションの光と雪が二人を包む。



