「……何してんの?」


 翌朝、ダイニングのテーブルで、藤也が小さな手でラップを丸めていた。


「おにぎりしてる」

「おにぎり?」

「そう。とうさんに、おにぎり」


 テーブルには、ごはんの入ったボウルと鮭フレーク、海苔の缶が並んでいた。


「できた! あい、どうぞ」

「……ありがと」

「おいしい?」

「まだ食べてないよ。お父さん、顔洗って歯を磨いてから食べるね」

「ん、もいっこつくるよ」


 洗面所に行くと、花音ちゃんが洗濯物を干していた。


「おはようございます、藤乃さん。……なにかいいことありましたか?」

「おはよう、花音ちゃん。なんで?」

「泣いてますよ」

「……ほんとだ」


 歯を磨いて顔を洗う。
 涙の跡が残ってないことを確認して、ダイニングに戻る。
 ボウルの中身が昆布とゴマを混ぜたごはんに変わっていた。


「とうさん、あい」

「ありがとう」


 鮭のおにぎりを食べながら、藤也が熱心におにぎりを作るのを見る。
 台所からは親父が出てきて、藤也の向かいに座った。


「じいちゃんにも一個くれよ」

「いいよ!」


 昆布とゴマのおにぎりが親父の前に置かれる。
 親父がラップを解いたら、おにぎりが崩れた。


「じいちゃんの、すきなかたちにしていいよ!」

「そうかい、そうかい」


 笑いながら握りなおす親父を見て、また少し泣きそうになるのは、歳のせいだと思いたい。