「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
目をパチッと開けるのと同時に、ぼくはベッドの上にがばー起き上がる。
「えぇ……だってぼく、このままだと――」
ぜぇぜぇ、と息をはきながら、いっしょうけんめい考えをぐるぐるさせる。
「ぼく、ぼく……」
でもがんばって考えれば考えるほど、答えははっきり一つ。
「あのぅ……」
正直、口に出すのもためらわれる。だって、言ったら本当になりそうじゃない?
言わなくっても本当のままだよ、ぼくのなかのぼくが答える。
ばかばかばか、ぼくのばか。ぼくの中のぼくのばか!
いや違う。今はぼく同士で喧嘩してる場合じゃない。
ぼくの危機だ。それも致命的なやつ。
だって、ここに転生してこのぼくになったってことはつまり――
「ぼく、死ぬよね?」
ここは多分、ナントカって国の王宮の、なんかその中。
えーっと、なんかほら、王さまとかが暮らしてるあたりの、はなれ……みたいな?
なんか情報がふわっとなのは、記憶があいまいとかじゃない。知識的な問題。
……しょうがない。ぼくまだ5才だし。
そもそもこの国の子じゃないし。
そう。ぼくはこの国の子じゃない。海の向こうのうんと遠くにある国の――
「サファさま! どうかなさいましたか!?」
意味もなく自分に言い訳してたら、わーっとなった侍女さんたちがやってきた。
「どこかお加減でも悪いのですか?」
すごい勢い。気がついたらもう取り囲まれてる。手練れだ。
「まぁまぁ、そんなに青い顔をなさって!」
思い出したばっかりの情報を頭の中で整理するヒマもない。
侍女さんたちが、ベッドの周りからぐいーっとぼくを覗き込む。
「お熱は……ないようですが、念のためお医者様を――」
やめて、そんなまじまじ見ないで。寝起きなのに、はずかし――じゃなくて!
「ちょっと待ってぇ!」
息をする間もなく病人モードに突入しそうになって、ぼくはハッとなった。
「サファさま?」
「だいじょぉぉぶ! 具合はなんともないから!」
「本当ですか?」
疑わしそうに覗き込んでくる侍女さんたちは、ウソは見逃さないぞ、みたいな顔でじーっと見てくる。ウソついたらめちゃ追求とかされそう。そして洗いざらいしゃべらされそう。ちょっと怖い。
「ほんとうに!」
これはウソじゃないから平気。そしてはっきりきっぱり言わないと、信じてもらえなさそうな空気。
お医者さんを呼ばれても、困る。
夢の中で前世の記憶が取り戻して、今世での自分の末路にビビってわめいただけです、って説明したら、多分ちがう病気をうたがわれちゃう。やっかい。
「ですが、さきほど叫び声のようなものを――」
「ちょっと、へんな夢を見ただけ!」
これもぜんぜんウソじゃない。前世で読んだ小説の「悪役令息」に転生したっていうのを自覚した夢、そんなの「へんな夢」じゃないわけがないし。
「そうなんですね。まぁ、お気の毒に」
「もう大丈夫。なにも怖くないですよ。さあ、お起きになれますか?」
すごい。過保護がすごい。なんかめちゃ大事にされてる感じする。
なのに、あとたった10年で、全員敵になってサクッと死刑になるの怖い。落差とんでもない。
しかーも!
思いっきり冤罪。
全くの無実なのに、アッサリ容赦なく終わっちゃうやつ。
そんなの、ほんと……ほんとムリぃぃぃ!!
「うぅぅ……」
ほんと、怖くて泣いちゃう。
「サファさま!?」
「どうなさったんですか?」
「やはり具合が……すぐにお医者様を――」
「だいじょうぶ!」
あーっと。
ぼくは、ちょっとアホの子なのかな?
さっき頑張ってお医者さんを回避したのに、一瞬で台無しにしてしまった。5才の情緒に引きずられるな、ぼく。油断は禁物だぞ。
「本当に?」
「ご無理なさってないですか?」
まずい、さっきよりも疑われてる。しっかり、ぼく。今は5才でも、転生する前は15才だっただろ。15才といえば立派なお……大人じゃないし、ぜんぜん子どもだ。
(え、15才!?)
自分をなだめた言葉に、自分でびくーっとなる。
(ぼく、前世でも15才で死んだの?)
ガーーン、と頭をたたかれたような気持ちになる。
(そんで、今度も15才で死ぬの?)
それはあまりにも……カワイそうすぎない?ぼく。
そんなのあんまりだ。
「ぐすん、しんどすぎる……」
「サファさまー!? 今すぐお医者様をお呼びしますから、しっかりなさってください!」
あー、ぼくはちょっとあれだ。あんまり頭がテキパキ働くほうの子じゃないのかもしれない。
……ま、しょうがない。いろいろ急に思い出したし、それがあまりにもカワイそうでガーンすぎたし。急にたくさん考えられないよね、うん。
はぁぁ、だって――
……前世でうっかり15才で死んじゃって。
まだあんまり楽しいこともなかったのに。
先行き微妙なぼくより、将来有望そうな小さい子が助かったほうがいいかな、なんて一瞬思っちゃったせい。それで思わず手が伸びちゃったよね。もちろん無意識。そんなの意識してできるわけない。
その子が安全なところに行ったのを見てホッとしたのと、ぼくの前の人生が終了したのはほぼ同時。
ほんとにカワイそう。ちょうど歩いてるところに暴走バスが突っ込んでくるし。近くに巻き込まれそうな、でもギリギリ助けられる子どもがいるし。
その上、今度のこの人生では、あっさり処刑だし。
ほんと、なーーんにも悪いことしてないのに。冤罪なんてあんまりだ、あんまり。
無実の罪で死刑は、本当に、ほんとうのほんとうにサイアクのやつ。
違うって言っても誰も聞いてくれないのはほんとうに悲しい。悲しすぎてもういいやってなるくらい悲しい。
あぁぁ、なんで今日、突然いろいろたくさん思い出しちゃったんだろ。そのせいで、なんかもう頭がぐちゃぐちゃのめちゃくちゃでバクハツしそう!
本当にもう……あのときのバスの乗客の人たちとか大丈夫だったのかなぁ……いや!今そこ考えるところじゃなくて、だからええと……どうにか死刑を回避しないといけないけど、でも方法が……
――ふしゅぅぅぅ……
ぼくの脳みその控えめな性能では、流石に限界だったらしくて。それきりぼくは元いたベッドにパタリ。
「サファさまっ!」
「サファさまっ! どうなさいました?」
「すぐにお医者様を!」
ああ、だから、だいじょうぶだってぇぇ……たぶん。
目をパチッと開けるのと同時に、ぼくはベッドの上にがばー起き上がる。
「えぇ……だってぼく、このままだと――」
ぜぇぜぇ、と息をはきながら、いっしょうけんめい考えをぐるぐるさせる。
「ぼく、ぼく……」
でもがんばって考えれば考えるほど、答えははっきり一つ。
「あのぅ……」
正直、口に出すのもためらわれる。だって、言ったら本当になりそうじゃない?
言わなくっても本当のままだよ、ぼくのなかのぼくが答える。
ばかばかばか、ぼくのばか。ぼくの中のぼくのばか!
いや違う。今はぼく同士で喧嘩してる場合じゃない。
ぼくの危機だ。それも致命的なやつ。
だって、ここに転生してこのぼくになったってことはつまり――
「ぼく、死ぬよね?」
ここは多分、ナントカって国の王宮の、なんかその中。
えーっと、なんかほら、王さまとかが暮らしてるあたりの、はなれ……みたいな?
なんか情報がふわっとなのは、記憶があいまいとかじゃない。知識的な問題。
……しょうがない。ぼくまだ5才だし。
そもそもこの国の子じゃないし。
そう。ぼくはこの国の子じゃない。海の向こうのうんと遠くにある国の――
「サファさま! どうかなさいましたか!?」
意味もなく自分に言い訳してたら、わーっとなった侍女さんたちがやってきた。
「どこかお加減でも悪いのですか?」
すごい勢い。気がついたらもう取り囲まれてる。手練れだ。
「まぁまぁ、そんなに青い顔をなさって!」
思い出したばっかりの情報を頭の中で整理するヒマもない。
侍女さんたちが、ベッドの周りからぐいーっとぼくを覗き込む。
「お熱は……ないようですが、念のためお医者様を――」
やめて、そんなまじまじ見ないで。寝起きなのに、はずかし――じゃなくて!
「ちょっと待ってぇ!」
息をする間もなく病人モードに突入しそうになって、ぼくはハッとなった。
「サファさま?」
「だいじょぉぉぶ! 具合はなんともないから!」
「本当ですか?」
疑わしそうに覗き込んでくる侍女さんたちは、ウソは見逃さないぞ、みたいな顔でじーっと見てくる。ウソついたらめちゃ追求とかされそう。そして洗いざらいしゃべらされそう。ちょっと怖い。
「ほんとうに!」
これはウソじゃないから平気。そしてはっきりきっぱり言わないと、信じてもらえなさそうな空気。
お医者さんを呼ばれても、困る。
夢の中で前世の記憶が取り戻して、今世での自分の末路にビビってわめいただけです、って説明したら、多分ちがう病気をうたがわれちゃう。やっかい。
「ですが、さきほど叫び声のようなものを――」
「ちょっと、へんな夢を見ただけ!」
これもぜんぜんウソじゃない。前世で読んだ小説の「悪役令息」に転生したっていうのを自覚した夢、そんなの「へんな夢」じゃないわけがないし。
「そうなんですね。まぁ、お気の毒に」
「もう大丈夫。なにも怖くないですよ。さあ、お起きになれますか?」
すごい。過保護がすごい。なんかめちゃ大事にされてる感じする。
なのに、あとたった10年で、全員敵になってサクッと死刑になるの怖い。落差とんでもない。
しかーも!
思いっきり冤罪。
全くの無実なのに、アッサリ容赦なく終わっちゃうやつ。
そんなの、ほんと……ほんとムリぃぃぃ!!
「うぅぅ……」
ほんと、怖くて泣いちゃう。
「サファさま!?」
「どうなさったんですか?」
「やはり具合が……すぐにお医者様を――」
「だいじょうぶ!」
あーっと。
ぼくは、ちょっとアホの子なのかな?
さっき頑張ってお医者さんを回避したのに、一瞬で台無しにしてしまった。5才の情緒に引きずられるな、ぼく。油断は禁物だぞ。
「本当に?」
「ご無理なさってないですか?」
まずい、さっきよりも疑われてる。しっかり、ぼく。今は5才でも、転生する前は15才だっただろ。15才といえば立派なお……大人じゃないし、ぜんぜん子どもだ。
(え、15才!?)
自分をなだめた言葉に、自分でびくーっとなる。
(ぼく、前世でも15才で死んだの?)
ガーーン、と頭をたたかれたような気持ちになる。
(そんで、今度も15才で死ぬの?)
それはあまりにも……カワイそうすぎない?ぼく。
そんなのあんまりだ。
「ぐすん、しんどすぎる……」
「サファさまー!? 今すぐお医者様をお呼びしますから、しっかりなさってください!」
あー、ぼくはちょっとあれだ。あんまり頭がテキパキ働くほうの子じゃないのかもしれない。
……ま、しょうがない。いろいろ急に思い出したし、それがあまりにもカワイそうでガーンすぎたし。急にたくさん考えられないよね、うん。
はぁぁ、だって――
……前世でうっかり15才で死んじゃって。
まだあんまり楽しいこともなかったのに。
先行き微妙なぼくより、将来有望そうな小さい子が助かったほうがいいかな、なんて一瞬思っちゃったせい。それで思わず手が伸びちゃったよね。もちろん無意識。そんなの意識してできるわけない。
その子が安全なところに行ったのを見てホッとしたのと、ぼくの前の人生が終了したのはほぼ同時。
ほんとにカワイそう。ちょうど歩いてるところに暴走バスが突っ込んでくるし。近くに巻き込まれそうな、でもギリギリ助けられる子どもがいるし。
その上、今度のこの人生では、あっさり処刑だし。
ほんと、なーーんにも悪いことしてないのに。冤罪なんてあんまりだ、あんまり。
無実の罪で死刑は、本当に、ほんとうのほんとうにサイアクのやつ。
違うって言っても誰も聞いてくれないのはほんとうに悲しい。悲しすぎてもういいやってなるくらい悲しい。
あぁぁ、なんで今日、突然いろいろたくさん思い出しちゃったんだろ。そのせいで、なんかもう頭がぐちゃぐちゃのめちゃくちゃでバクハツしそう!
本当にもう……あのときのバスの乗客の人たちとか大丈夫だったのかなぁ……いや!今そこ考えるところじゃなくて、だからええと……どうにか死刑を回避しないといけないけど、でも方法が……
――ふしゅぅぅぅ……
ぼくの脳みその控えめな性能では、流石に限界だったらしくて。それきりぼくは元いたベッドにパタリ。
「サファさまっ!」
「サファさまっ! どうなさいました?」
「すぐにお医者様を!」
ああ、だから、だいじょうぶだってぇぇ……たぶん。
