1. 巻き戻った人生  
 

「お嬢様」
 
「お嬢様、起きてください。朝でございますよ」
 
 ……ん?
 
「お嬢様。今日はライアン第一王子殿下と初めて顔合わせをする、めでたき日でございます。さぁ、早くお支度をしないと。寝起きの悪さもこれを機に直されますよう願います」
 
 は?
 今、なんて言ったの?
 ライアン王子との初めての顔合わせ?
 え、だってわたくしは死んだはず……
 
 
 そこまで考えて、違和感を感じて飛び起きた。
 
 
「あ、ようやく起きられましたか。今日はお早めに起きて下さったほうでございますね」
  
 少し嫌味な言い方をしながらも、幼い頃より私に付いてくれているメイドのジェシカが目の前に立って笑っていた。
 しかも何となく若くなっているような?
 
「ジェシカ?」
「はい」
 
 ジェシカは確か、私が学園に上がる頃、実家の都合で暇をもらって田舎に帰ったはずだ
 
「ジェシカ、田舎に帰ったのではないの?」
 
 そう話す自分の声にビックリした。
 いつもより1オクターブ高めの、やや舌足らずな声。
 自分に目を向けると、小さな手が見える。
  
「え?」
 
 自分に驚いていると、ジェシカがため息を吐きながら私を見た。
 
「お嬢様。私を解雇しようとされているのですか? 田舎に帰る予定は微塵もありません。寝起きの悪さはいつもですが、今日は特に酷いのでは?」
 
 ジェシカはブツブツと文句を言いながらも、テキパキと手を動かし、洗面の準備や着替えを用意している。
 
 ……待って。
 
 有り得ないでしょ? こんな事。
 
 だって、私はついさっきまで馬車に乗ってて、そこから崖に放りだされたのよ?
 
 その時の私は18歳で……
 今の私は?
 
「ねぇ、ジェシカ。わたくしってライアン第一王子に今日初めて会うのよね?」
「そうでございます」
 
 という事は、今の私は7歳!?
 私はベッドから出てすぐに姿見の前に立った。
 
「小さい……」
 
 幼くなっているけれど、プラチナブロンド色のストレート髪。アメジスト色のやや吊り上がった瞳は、キツイ印象を与える。これは、どう見ても私だ。
 どうしてこんな事が起こっているんだろう? 
 私はあの時、崖から落ちて死んだはず。
 
 姿見の前で考え込んでいる私を見て、ジェシカが呆れていた。
 
「お嬢様。早くご準備なさらないと御当主様をお待たせしてしまいますよ」
 
「あ! それは駄目ね! 急いで準備しなきゃ! ジェシカ、お願いね!」
 
 身体が小さくなったせいか、話し言葉まで幼くなった気がする。
 でも、そのおかげでジェシカに不審に思われる事無く、この場をやり過ごす事が出来た。