“狂月姫”―――。



その名を知らない不良は、この地域に居ない。




美しい銀髪。

その瞳は黄金色に輝き、まるで月の様に美しい。


そして、たった1人で総勢100名以上の不良グループを、たった1人で壊滅させた。



月の様に美しく、狂った様な強さ。




そうして“狂月姫”は誕生した。
















………でもコレは2年以上前の話。


今の“狂月姫”―――小鳥遊 夕璃(タカナシ ユウリ)、つまり私は、JK2年目♡



もう喧嘩なんて興味無い……って言いたい所だけど、やっぱり喧嘩は大好き。

でも、喧嘩するとお姉ちゃんはいつも怒るから高校に入って今まで、一切喧嘩してないの。


偉くない??

偉いよね????





でもね、“狂月姫”の名は、この地域で知られ過ぎた。

毎日の様に喧嘩を挑まれて、

女子には疎まれて


それをみたお姉ちゃんは私を東京へ引っ越しさせた。


東京の高校に入って、イチからやり直せって。




そしたらね、私の偏差値で入学出来た唯一の高校は……






とんでもなく治安載悪い不良校でした。









――――――――――――――――――――――






「えー……転校生の、小鳥遊夕璃さんです…、み、皆さん、仲良くしてあげてくださいね……」
 



…煩い。


さっきからなに!?この教室ッ!!!


ずぅぅぅぅっと喋ってる!!私に見向きもしないで!!

…奥に一人寝てる奴はいるけど。その他の人達が全員煩いなんて事ある!?

…これは暴れてもいいですよね?……いいよね?



「あ、あの……」



センセも萎縮しちゃって、誰も話を聞いてない。


………うん、暴れよう。





バキッ、という音を立てて教卓を殴りつける。


すると生徒共はびっくりした様にコッチを見た。

そして…




なになに、今コイツが叩いたの?
すげぇ音だったんだけど?
うわ、見ろよアレ。教卓凹んでるんだけどw
てか何、あの子美人じゃん
えー?私の方が美人でしょ




とまた喋り出した。

ぎゃあぎゃあ、……本当に煩い。




『今日から転校してきましたァ、八雲夕璃でース。ぎゃあぎゃあ煩い皆さんと仲良くするつもりは微塵も無いんで、ヨロシクオネガイシマース。』



最後に、にっこり笑って言い終わると、教室の空気が凍った。
まぁ、そうだよね、こんな事言われちゃあ、ね。




「は、何?いきなりんなこと言うとかキモっ」


一番後ろの席の、メイクの濃い女達が、私を見て嗤う。



「机叩くとか野蛮人じゃん、怖ぁい」
「ウチ、びっくりしちゃったんだけどぉ」
「馬鹿なんじゃないのぉ?」


きゃはは、と耳障りな笑い方をして、コッチを見る女達。



『……じゃ、その野蛮人と同レベルの頭してるアンタ等も馬鹿なんじゃない?』
「な…っ!?」



私は教卓から離れ、女達の近くへ行くと自分の頭を軽く小突くジェスチャーをした。

そのジェスチャーを見た女達は顔を真っ赤にしながら怒り始めた。



「っはぁ!?ウチ等に馬鹿とか何様なんだよ!」
『小鳥遊夕璃サマですけど?』
「ッ〜!このッ」



女の内、1人が手を挙げて私を叩こうとする。

私はその手を軽く避けてから素早く掴み、自分の方へ引っ張る。


「っきゃあぁあ!?」


そのまま女を教室の床に組み敷く。
教室の視線という視線が、私に集まる。


「ッ〜!!何すんだよッ!!離せ、この…ッ」
『あーあー暴れんな?次喚いたら腕折るから。』
「ッはぁ!?お前にできる訳…」


女が喚いたと同時に、女の腕を掴む力を強くする。


「!ぃ、ッ、痛ッ!?痛い!!」
『喚いたら折るって言ったよね?』
「ッ〜〜!!ごめんなさいッッ!!謝るからッ!」


涙目で私を見る女。……そろそろ懲りたかな?
そう思い、ぱっと手を離す。
女は直ぐに立ち上がり、教室を出て行った。

すると、また一気に教室内は騒がしくなった。


好奇、恐怖、興味…………様々な視線が私を貫く。
流石に鬱陶しくなってきて、無視して自分の席に座ろうとすると。






「……さっきから騒がしいんだけど」







ずっと机に突っ伏していた黒髪の男が声を出した瞬間、さっきまでの教室内の騒がしさは何処へ行ったのか、と言う程静かになった。

ゆっくりと顔を上げた男は、綺麗だった。
漆黒の髪に、透き通った黒い瞳。鼻筋は通っていて、顔も小さい。
アイドルかなにかだと見紛う程に、綺麗な顔立ちをしていた。




「………あ゙?誰、オマエ。」




黒髪の男は私を指差しながら顔を顰めた。



『…転校生の八雲夕璃。聞いてなかった訳?』


まぁキミ寝てたもんね。…なーんて言葉は口に出さない。もう面倒事は御免だからね。



「っカイウ、!!」


さっきの女達が、黒髪の男――カイウ、という名前の男に駆け寄る。


「この女がね、さっきユリに酷い事したのぉ!」
「カイウ、お願いッ、この女ノしてよぉ!」


甲高い声でぶりっ子をする女達。気持ち悪くて堪らない。よくあの顔でぶりっ子しようとか思ったね…。


「…なんで?」
「ウチ等に馬鹿って言って来たんだよぉ、!だからユリが怒ったらコイツがいきなり…」


うわ……自分達がやったこと、言った事全部伏せて報告してる……。

……このカイウって奴、強いのかな?

ノして…って頼まれるくらいなら、楽しめる程度ではあるはず。久々に喧嘩できるかも?


嬉しい、という感情が顔に出ていたのか、カイウは眉を顰めた。



「なに、笑ってんの?」
『……いや、別に?喧嘩出来んのかな、って思って嬉しかっただけ。』
「……は?オマエが?喧嘩?」



ぽかん、と間の抜けた顔をしたカイウ。直ぐに意地の悪い笑みを浮かべると


「じゃあ、喧嘩させてやるよ。コイツ等とやってみれば?」


カイウは近くにいた体格の良い男数人を引っ張って立たせた。
強そうには見えないけど。


「お前等、勝ったら好きなコト、ソイツにしていーから」
「うわ、マジ?サイコーじゃん」
「近くで見るとホントに可愛ーじゃん、タイプ」


………私、負けると思われてる?



『……此処でヤんの?狭いから暴れられねぇんだけど』
「今、此処で。喧嘩好きなんだろ?」


カイウは笑いながら私を見つめる。

…………








『いいよ、早くしよう。』
「じゃーゴメンな?俺等勝確でッ!」


男が私を殴ろうと振り被る。
私は、振り上げて無防備になった脇腹へ、蹴りを入れた。



「ッっ゙っ!?」
『なんだ…思った10倍位弱いじゃん』
「んだと、ッ!!」

 
怒りに任せた単調な攻撃。弱い。遅い。


「ッこの!!」
『雑魚のクセにイキってんじゃねーよ』


私は脚で男の顎を蹴り上げる。
顎をピンポイントで蹴れば脳が揺れるから、上手く立つことはできなくなる。
男は床へ倒れた。
……おっと、力入れすぎたかな?気絶してる。



私はカイウの方へ顔を向ける。

カイウは酷く驚いた顔をして、私を見つめていた。



『…コレで満足?』


「……………ょ。」

『は?』











「オマエ、俺の女になれよ。」













『ッはぁ!?』