春の風が、そっと頬を撫でる。

彼女は落ちていた小さな四つ葉のクローバーを拾った。

「こんなところで…」
昔の記憶がふっと胸をよぎる。

街は相変わらず賑やかで、でもどこか優しい匂いがしていた。

「また、会えるかな」
小さな声で呟く。

チューリップの花壇を抜けると、幼い日の笑顔が浮かぶ。
そして彼は、変わらずそこに立っていた。

二人は何も言わず、ただ見つめ合う。

春は、いつだって人の心を少しずつ温めてくれる。



彼の姿を見つめるたびに、胸の奥がざわつく。

あの日のことが、まるで昨日のことのように思い出される。

「変わっていないね」
声をかけると、彼は少し驚いた顔をした。

でもすぐに、柔らかく微笑んだ。

「君もだよ」
その笑顔に、心が少しだけ軽くなる。

街の喧騒の中で、二人だけの時間がゆっくり流れる。

風に乗って、春の香りが二人を包んだ。



街角のカフェに入ると、懐かしい香りがした。

コーヒーの香りと、木の温もりが混ざった空間。

「ここ、昔よく来たよね」
彼女がそう言うと、彼は頷いた。

「覚えてるよ。あの時、君が笑った顔が忘れられなくて」

思い出話に花が咲く。
けれど、その裏にあった気まずさや後悔も、少しずつ溶けていくようだった。

窓の外には、春の光がやさしく降り注ぐ。



二人で歩く帰り道。

小さな四つ葉のクローバーがまだ手元にあった。

「これ、ずっと持ってていい?」
彼女が差し出すと、彼はそっと受け取った。

「もちろん」
その手の温もりに、言葉はいらなかった。

沈黙の中で、互いの気持ちは確かめ合っていた。

街路樹の下で、春の光が二人を照らす。

未来はまだ見えないけれど、少しずつ、二人で歩いていける気がした。



春を拾ったあの日のことを、二人はずっと忘れないだろう。

小さな奇跡と、再会の喜びが、心の中でそっと花を咲かせる。

失ったものを取り戻すのに、遅すぎることはない。

春は、誰の心にも、また訪れるのだから。