遠くても、近くても ─君を想う1ヶ月間─



 ――12月23日。
 私は放課後に、真央と街に出て買い物をしていた。
 薄暗い夜空の下、イルミネーションが街全体を色とりどりに包みこんでいた。
 クリスマス一色の町並みに、胸が高鳴った。

 敦生先輩と明日の最後のデートのために、白いワンピースを購入した。
 気合いが入ってるとは思われたくないけど、少しおしゃれしたい。

「敦生先輩に、クリスマスプレゼント渡すの?」

 真央は買い物袋をぶら下げたまま、顔を傾けた。
 私は首を小さく振る。

「偽彼女契約は、明日までだから……。どうすればいいんだろう」

 覚悟は決めているものの、唇が震える。
 彼が望んでいたのは、”信じられる人”が傍にいること。
 私は少しでも力になれたのだろうか。

 ショッピングセンター内のざわめきが、心の奥のざわめきと重なった。
 
 プレゼントを渡しても、私たちの関係は明日で終わり。
 残り1日を喜ばせても、それが彼の記憶に残るとは限らない。

 1ヶ月間――こんなにも短かったんだ。

「契約が終わったら、友達になるの?」
「全然考えてない。毎日一緒にいると、それが当たり前に思っちゃうし」
「敦生先輩がフリーになったら、ファンは大喜びだろうなぁ」
「……たしかに。嫌がらせも、冷やかしも、何事もなかったかのように終わるんだよね、きっと」

 マフラーをぎゅっと握りしめると、縫い目が視界に入った。
 この1ヶ月間、本当にいろんなことがあったな。
 マフラーのガタガタした糸の感触に、この1ヶ月間のすべてが詰まっている。

 今日までの日々を思い返していると、ふっとため息が漏れた。

「でもさ、里宇から話を聞いてると、好きにならない方が難しくない?」

 真央はボソっと呟いて、私を見つめた。

「えっ」

 無意識に目が丸くなった。

「ファンから守ってくれたし、マラソン大会の時は練習に付き合ってくれた。それに、破けたマフラーを縫って、約束できるように長時間待っててくれたんでしょ」
「あ、うん……」
「私だったら好きになっちゃうかな。そこまでしてくれる人、なかなかいないし」

 たしかに彼は、この1ヶ月間で目に見えないものをたくさん与えてくれた。
 イヤホンの件がなければ、私は見向きもしなかったし、多分一生関わらなかった。
 遠くで女子が騒いでるのを、ただ眺めていた程度。
 私は思い出だけを大事にしていた。

 あいつ、生意気だし、まっすぐ過ぎて見ていられない。
 ――准平とは、まるで違う。

「そう? 私は……好きじゃないよ、多分」

 そう言いながらも、息が詰まる。
 冷たい風を吸い込むたびに、痛みが増していく。

 イルミネーションに目を向けると、色とりどりに街を着飾っていた。
 残りわずかな輝きを、ぼんやりと見つめた。
 あと少しで見れなくなると思うと、精一杯目に焼きつかせたくなる。
 また来年も、同じように見ることができるのだろうか。

 あの日からも、准平のマフラーを大事にしている。敦生先輩も、イヤホンを大事にしている。
 それが、私たちが選んだ答えだった。

 そう思っていた――あの日が来るまでは。