わたしはオレンジ色の花を、とてもとても気に入りました。わたしは名前を付けようと思い、「リリィ」と呼びました。

オレンジ色の花は、父と母が逮捕された後に“マリーゴールド”だったと知りました。

「リリィ。大きな声を出しちゃダメ。わたしがなぐられちゃうからね」

大きな声を出すと、また母に引き摺り出され、殴られてしまいます。父はもうわたしに飽きたのでしょうか、最近はあまり絡んできません。

わたしはそれを、少し悲しく思いました。父から見放されたと思ったのです。

殴られるのはあまり好きではなかったけれど、承認の為の儀式だと思うと、途端に嬉しく感じるわたしが居ました。


「リリィ、リリィ。ねえリリィ、リリィ。」

わたしはただ、リリィの名前を呼ぶことしかできませんでした。

なぜなら、リリィに向けて言える言葉が無いからです。わたしは本能的に、「死ね」や「ゴミ」を悪い言葉だと感知していたのです。

リリィの名前しか呼べないことに、悲しさと、申し訳ないという気持ちが湧き上がってきました。リリィ、もっと話をしたいのに。リリィ、リリィ。

それでもリリィは、わたしを許してくれました。陽だまりのような優しくあたたかい色のオレンジは、いつしかわたしをぎゅっと包み込んでくれました。