「ときに、貴殿の家名は?」
「かめい?」
「名字のことな。なんで、そんなことを?」
「ははは、影殿の圧は怖いなあ。喉が詰まるような圧だ。ただの好奇心でござるよ。若く見えるのに文字の読み書きに難がなく、それがしのような不審な相手にも臆さない。影殿や喋る猫とも知り合いだ。さぞかし高名な寺のお子かとお見受けいたが」
「普通のサラーマン家庭だよ」
「さらりいまん?」
不思議そうな生首に、影が僕の家のことを説明した。
どこにでもいる、父は会社勤め、母は在宅勤務のフリーライター、一人っ子で小学生の僕の三人家族。
父方母方、それぞれの祖父母が車で一時間くらいのところに住んでいる。
お金持ちではないけど、たぶんちょっと裕福なほうの、一般家庭。
「なるほど、なるほど。しかし一人っ子とは珍しい」
「今は割と普通だと思うよ。あなたの時代では違うかもしれないけど」
「そうさなあ。たくさん生んで、生き残る数を増やす。……今にして思えば野蛮よなあ」
「……時代ごとに価値観は変わるから、今言ってもどうしようもないよ」
「幼いのに、達観されている」
「どうかな」
影が気遣わしげに僕を見た。
僕は首を横に振っておいた。
四人の祖父母が、母さんに次の子を望んでいたことを僕は知っていた。
母さんと父さんが断固首を縦に振らなかったのも。
その理由を僕と、そして影は知っている。
僕は兄弟なんていらない。影がいればいい。
鉛筆を削ろうとした手が滑って、筆箱がひっくり返った。
「デリカシーのねえ生首だよ」
影がため息をついた。
「かめい?」
「名字のことな。なんで、そんなことを?」
「ははは、影殿の圧は怖いなあ。喉が詰まるような圧だ。ただの好奇心でござるよ。若く見えるのに文字の読み書きに難がなく、それがしのような不審な相手にも臆さない。影殿や喋る猫とも知り合いだ。さぞかし高名な寺のお子かとお見受けいたが」
「普通のサラーマン家庭だよ」
「さらりいまん?」
不思議そうな生首に、影が僕の家のことを説明した。
どこにでもいる、父は会社勤め、母は在宅勤務のフリーライター、一人っ子で小学生の僕の三人家族。
父方母方、それぞれの祖父母が車で一時間くらいのところに住んでいる。
お金持ちではないけど、たぶんちょっと裕福なほうの、一般家庭。
「なるほど、なるほど。しかし一人っ子とは珍しい」
「今は割と普通だと思うよ。あなたの時代では違うかもしれないけど」
「そうさなあ。たくさん生んで、生き残る数を増やす。……今にして思えば野蛮よなあ」
「……時代ごとに価値観は変わるから、今言ってもどうしようもないよ」
「幼いのに、達観されている」
「どうかな」
影が気遣わしげに僕を見た。
僕は首を横に振っておいた。
四人の祖父母が、母さんに次の子を望んでいたことを僕は知っていた。
母さんと父さんが断固首を縦に振らなかったのも。
その理由を僕と、そして影は知っている。
僕は兄弟なんていらない。影がいればいい。
鉛筆を削ろうとした手が滑って、筆箱がひっくり返った。
「デリカシーのねえ生首だよ」
影がため息をついた。



