熱心に地図を見る生首はそのままにして、僕は宿題に戻った。

 なんとか終わらせた頃に影が起きてきて僕の手を引っ張った。


「なに?」


 影が僕の体を這って、耳元でささやいた。


「静かに。返事はしなくていいから、姿見を見ろ」


 なんだろう。音を立てないように振り返ると、椅子に座った僕と影。勉強机と引き出しの棚が映っている。

 影を見ると、耳元でまたひそひそささやいた。


「あいつ、映ってないだろ」

「……ほんとだ」

「今までお前が会ってきた中で、鏡に映らなかったのは?」

「えっと、悪魔とお化けとドラキュラ、あやかしは人による」

「しかし、あいつには影はあった」

「……悪魔かお化け、あやかし」

「そういうこった。少なくとも人間ではない」

「人間は首だけじゃ動けないから」

「それはそうだ」


 僕と影は生首を見つめた。


「おや、しくだいとやらは終わったかな?」

「うん。地図帳、まだ見る?」

「いや、もうけっこうにござるよ。どうにかして生まれ故郷に戻りたくはあるがなあ」


 匝瑳市に行きたいという生首の希望を影に話した。

 影は頷いたけど、いい案はないみたい。

 僕はランドセルをひっくり返して、明日の用意をする。