「わーーーーっ」


 僕は慌てて近くの木によじ登り、ブロック塀の向こうを覗きこむ。

 生首がごろんと転がって悲鳴を上げていた。


「ど、どうしよう?」

「放っておいて帰ろうぜ」

「うるさくて近所迷惑じゃない?」

「それならそれで、この家の家人がどうにかするさ。爆弾じゃないんだし」


 爆弾? 首を傾げる僕に「でも」と、ブロック塀の上に飛び乗ったメブキさんが呟いた。


「生首はどうなるのかしら。悪霊だとしたら同類を寄せてこない?」

「……そうかも」


 影が嫌そうに生首を覗き込む。


「はー、迷惑な首だよ」


 するり、するり、影が伸びた。

 生首が目を見開いて黙る。

 影は生首を掴んで僕の足元に戻ってきた。


「影、大丈夫そう?」

「今のところは。こいつの影を押さえつけているから、悪さはできねえよ」

「どうなさるの、それ。連れて帰ったら坊やの母君が驚くでしょう?」

「うーん……本屋にでも置いておこうか」


 やっと僕は梶尾基次郎の話をしているのだと気づいた。

 さっき国語の授業で先生が話していた。

 檸檬じゃなくて生首だし、本当に爆発して悪霊を呼び寄せるかもしれないけど。


「あなたの生きていた時代だと、討ち取った首はどうしていたの?」


「塩漬けにして瓶に……そ、それがしは生きておるゆえ!! 塩漬けは勘弁願いたく!!」


 生首が叫んだ。