「いつからここにいるの? お腹空いてない?」

「いつからかは、とんと見当がつかぬが、空腹ではござらんよ」

「……やっぱり、身体はないんじゃないかなあ」

「そうだな。じゃあ帰ろう」


 影がぐいぐいと僕の足を引っ張った。

 僕がこういうよくわからないものに関わるのを影は嫌がる。目は見当たらないのに、すごく睨まれているのがわかった。


「よくわからないのは、俺一人で十分だろうが」


 ということらしい。


「そうねえ、そろそろ私も帰りたいわ。メトロも疲れているみたいだし」


 そういうメブキさんの足元を見たら、いつの間にかメトロは跳ね回るのを止めて毛繕いをしていた。


「じゃあ帰ろうか。あんまり遅くなるとお母さんが心配するから」

「むむ、それはいけない。稚児が母を心配させるものではござらんよ」

「そうだそうだ。帰るぞ」

「その前に、それがしをどこか雨露の凌げる場所へ移動してはくれなかろうか」


 生首が困った顔で僕を見た。


「それくらいなら」

「ダメだ。そんな得体の知れないものに触るんじゃない。身体を乗っ取られたらどうするんだ」

「そ、そんなことができたら、こんなところで往生しておらんよ」


 影と生首が言い合いを始めてしまった。


「にゃー」

「メトロ?」


 毛繕いを終えたらしいメトロが起き上がって、ブロック塀に飛び乗った。

 メブキさんが慌てて後を追ったときには遅くて、生首は塀の下に蹴り落とされていた。