手を離すと、生首は踵を返して自分の足で歩いて行った。

 一歩ごとに薄くなって、そして消えた。

 僕と影は黙ったまま、生首が消えた先を見ていた。


「帰るぞ」

「うん」


 影に促されて車に戻る。

 車では、父さんが本を読みながらうとうとしていた。


「戻ったか。うん、じゃあ行こう」

「はあい」


 父さんの実家の神社で、おじいちゃんにお説教されながらお祓いを受けた。

 おじいちゃんは僕の足元の影を困ったような笑顔で見ているし、父さんも自分の影を僕の影に重ねている。

 二人とも何も言わないけど、きっと諸々お見通しなんだろう。

 おじいちゃんは「ついでだから」と風呂敷と檜扇にも御神酒をかけて清めてくれた。




 次の日の昼過ぎ。

 僕は空き地の木陰で、猫娘に風呂敷と檜扇を返した。

 すぐ側でメブキさんが昼寝をしているし、メトロが虫を追いかけて跳ねていた。

 影は木の影に沈んでうとうとしている。


「あら、穢れを祓っておいてくれたのね」

「うん。レンタル料」


 僕がうそぶくと、猫娘は肩をすくめた。


「ふふ、残念。ふんだくってやろうと思ってたのに」

「代わりに、これをやろう」


 おじいちゃんから借りてきたお椀とサイコロを取り出すと、猫娘が嬉しそうに笑った。

 メブキさんが起き上がって寄ってくる。


「では、私が賽を振りましょう」

「よろしく」

「何を賭けるの?」

「君が勝ったら、午後いっぱい撫でてあげる」

「あら、勝たなくちゃ」

「僕が勝ったら」


 猫娘の耳元でささやくと、彼女は顔を真っ赤にした。


「んにゃっ、なに、なにそれ!!」

「僕はどっちだっていいんだよ。メブキさん、投げてください」


 メブキさんは微笑んで、前足で器用にお椀を持った。

 影が木の影から出てきて、あくびをしながらお椀を見ている。

 賽は投げられた。