風呂敷の上で、生首は泣いていた。


「大丈夫?」

「……ああ。問題ない……ここまで連れてきていただき、感謝しかない」


 影がぬるっと起き上がって、生首にかざしていた檜扇を外す。

 慰霊碑の後ろから、半透明の体が出てきた。

 ……半透明で、ぼろぼろの鎧を着けている。

 日本史の教科書で見た鎧の、もっとしょぼい感じ。

 体が両手を差し出した。

 影が僕と体の間に割って入り、生首を風呂敷越しに差し出す。

 体は生首を受け取って、首に乗せた。半透明だった体が、スッと濃くなった。


「……やっと会えた」

「よかったね」

「うむ。感謝してもしてもしきれぬ」


 涙に濡れた頭を下げたその人は、僕と同じか、少し大きいくらい。

 猫娘に髪をあげちゃったから、頭はぼさぼさだし、来ている鎧だってぼろぼろだ。

 でも、安心した顔で、僕を見ていた。

 影は相変わらず、僕とその人の間に立っている。

 この人、これからどうするんだろう?

 口を開きかけたら、お寺の鐘が鳴った。

 鳴り終わるまで鐘撞き堂を見て、その人に顔を戻したら、また薄くなっていた。

 たぶんあの鐘の音はこの人にとって福音なんだろう。


「お疲れさまでした」

「うむ。世話になった。何か礼ができれば良いのだが」


 そう言いながらその人は首を傾げた。


「じゃあ、丁半博打でどうやって猫娘に勝ったか教えてよ」

「ああ、あれは」


 その人は面白そうに笑って、種明かしをしてくれた。

 なるほど、僕にもできそうだ。

 影が嫌そうに体を揺らした。