「お使いって? 僕ら、これ以上猫娘に関わりたくないんだけど」

「ふふ、そうよね」


 そう言いながらメブキさんが差し出したのは、木でできた扇子だった。


「これ、なあに?」

「檜扇、だな」


 影が生首を抱えたまま言った。

 生首も小さく頷く。


「高貴なる身分のお方が顔を隠すために使うものにござるよ」

「そう、顔を隠すためのものなのよ」


 メブキさんがニヤッと笑った。

 そして猫の手で檜扇を器用に広げて、生首の顔の前にかざした。


「わ、薄くなった」

「そうなの。見えなくなるわけではないけれど、影が薄くなるのよ。顔だけですけど、顔しかないからちょうどいいのではなくて?」


 僕はメブキさんから檜扇を受け取って、影の頭の辺りにかざしてみた。

 あんまり変わらなかった。

 でも、メブキさんの顔にかざすと、確かに全体的にぼんやりして見えた。

 問題は僕の父さんに通じるかどうかだ。

 風呂敷に包んだ上で檜扇を立てかけておけば大丈夫かなあ。


「うーん。面白いけど……父さんに通じるかわかんないし、対価を払いたくないよ」

「坊やの父君については、私はわからないわ。檜扇の対価は坊やが猫娘と一日遊んでくれればいいと」

「お断りします」


 僕は扇をパタッと閉じてメブキさんに突っ返した。


「一考の余地もないのね」

「ありません。お引き取りください」

「では、それがしが、猫娘殿と遊んで差し上げよう」

「えっ」


 ニヤリと笑う生首に、メブキさんが目を丸くした。影が僕の足を引っ張る。


「もう、そいつを猫娘に押しつけて帰ろうぜ」


 それがいい気がしていた。