扉がコツコツと叩かれた。


「は、」

「まて、答えるな」


 影が低く唸った。

 僕は生首をささっと風呂敷に包んで袖机とベッドの間に隠す。

 また扉が叩かれた。

 タブレットを出してきて、家族のグルチャ画面を確認した。今日は父さんは出勤、母さんは在宅勤務。でも、僕の母さんは扉のあんな低い位置を叩かない。


「マズったな。盛塩があるから俺が確認もできねえ」

「でも、盛塩があるから入って来られないんでしょ。つまり、ろくなもんじゃないよ」


 父さんの帰りはまだ先だ。

 僕が招かなければ、あやかしや怪異の類いはこの部屋には入れない。

 でも、それは家全体がそうなんだけど。


「メトロ?」

「ふにゃー」

「ばっか、変なのが擬態してるのか本物か分からなくなったじゃねえか」

「ごめんよ」

「驚かせてごめんなさいね」

「うっわっ」


 突然、メブキさんの声がした。振り返ると窓の縁にメブキさんが器用に立っている。


「何してるんですか」

「猫娘からお届け物よ。メトロは先日あなたの家に入れてもらったでしょう? だから入れたのだけど」


 ノックしたのは、たんに扉が閉めてあったかららしい。

 盛塩は関係なかった。


「じゃあメトロと一緒に庭に行きますね」


 影が生首をかかえて、僕がメトロを抱っこして、庭に向かった。

 途中で書斎を覗いたら、母さんが普通にオンライン会議をしていて、安心した。