メブキさんを見送った数日後。

 授業を終えて帰る途中で、影に呼び止められた。


「空き地に寄るぞ」

「なに?」

「帰ってきた」


 ランドセルを揺らして空き地に走った。

 木陰でメブキさんが毛づくろいをしていた。


「お帰りなさい、メブキさん」

「ただいま、坊や。石はお返しするわ」

「うん。よかった、帰ってきてくれて」


 メブキさんは深く息を吐いた。その後ろでメトロがニャゴニャゴ言いながらメブキさんに甘えている。


「結論から言えば、体はなかったわ」

「だろうなあ」

「匝瑳市にも行ってない」

「遠いもんねえ」

「慰霊碑につながってました」

「いれいひ?」


 首を傾げる僕に、影が「慰霊碑っつーのは……」と説明してくれる。


「つまり、死んでいる」

「ええ」

「あの生首は?」

「幽霊ってことねえ」

「生首の幽霊?」


 幽霊なら全身で出てくればいいのに。


「……おそらく、だが、死因は切腹か?」


 影が低い声で言った。切腹。歴史の授業で聞いたような?


「そうだと思うわあ。なんで人間はわざわざハラキリから首を落とすなんて恐ろしいことをするのかしらねえ」

「何でだ?」

「し、知らないよ!」


 僕だって、そんな痛そうなことしたくないもの。


「とにかく、その慰霊碑まで生首を連れて行けばいいのかな」

「遠いわよ。坊やの足じゃ、どれだけかかるか」


 メブキさんが教えてくれた住所は確かに遠かった。

 影が唸った。


「……親父さんに頼むか」

「そうだねえ。怒られるかなあ」

「多少は。まあこっそり行くよりはマシだろ」


 メブキさんにお礼を言う。今度キャットハウスに差し入れしよう。

 僕と影は家に向かった。