「薬、かけていい?」

「う、うむ……」


 僕は瓶の蓋を開けて、中身を生首にぶちまけた。


「乱暴かよ。もう少しやりようがあるだろうが」

「ご、ごめん。飲む薬かもだもんね」

「そういう問題じゃねえ……」


 生首はしばらく目をぱちぱちしてから、不思議そうに眉をひそめた。


「何か? 見えるだろうか?」

「んー、んー?」


 なんにも……あ、後ろだ。


「後ろから、外に線が繋がってるね。外に出てる」


 僕は窓から外を見た。

 緑っぽい線がぼんやり光りながら、家の庭から、さらに遠くへ伸びている。


「どこまで続いてるんだろう?」

「わかんねえなあ」

「なら、私が見てきましょうかね」

「メブキさん!」


 うちの塀の上を猫又のメブキさんが歩いていた。

 今日はメトロはいないみたい。


「嵐の日、メトロを坊やのお家で休ませてくれたでしょう? そのお礼です」

「そういうことなら、頼んでいいかな」


 影が頷くのを確認してから、僕はメブキさんにお願いした。


「私が戻らなかったら、メトロと子供たちをよろしくねえ」

「縁起でもないこと言わないでよ。あ、これ持って行って」


 僕は引き出しから小さな石を出した。同じくらい小さな巾着に入れてメブキさんに差し出す。


「これは……あらあら対価が払えないわ」

「そうでしょ。だから帰ってきて返してね」

「ふふ、坊やもすっかりしたたかねえ」


 メブキさんは笑って、二本の尻尾を揺らしながら去って行った。


「メブキ殿に何を渡されたのだ?」

「蛙石。かえるいしとも言うね。帰ってきてねってことで」

「なるほど……貴殿は歳に見合わず聡明よなあ」


 感心する生首に、影は相変わらず嫌そうな顔をしていた。