猫娘はぶつくさ言いながら生首の後頭部を眺めた。


「髪、もらうわよ」

「うむ。すっぱり持って行かれよ」

「……そんなには、いらないわ」


 生首の結に猫娘が手をかけた。

 無表情のまま、一房取って、鋭い爪で切り取った。


「そんなわずかで良いのか。ざっくり持って行って構わんが。体が無い故、手入れも行き届かぬし」

「いいえ、これでけっこう。過不足があってはいけないの。等価でなくては。あたし、あんたにこれ以上払いたくないわ」


 猫娘は顔をしかめて去って行った。

 僕は生首を風呂敷で包み直して部屋に戻ろうとして……入れなかった。


「なんで?」

「盛塩してるからだろう。これ、作ったの親父さんだからなあ」

「あーなるほど」


 僕は生首を影に任せて、盛塩の乗った豆皿を持ち上げた。

 ドアに背を向けて、影と生首を先に部屋に入れる。

 それから豆皿を置き直して、僕も部屋に入った。

 ……父さんの盛り塩で弾かれるってことは、本当に駄目なやつなんだろう。


「しっかし、あの猫娘が欲張らねえとは。明日は槍が降るかもな。猫娘の変だ」

「そうかも」


 僕と影は目配せをして、生首を風呂敷でがっつり包んだ。


「あんなちょっとの髪で、『縁を可視化する薬』と等価になるって、やっぱヤバいやつかな」

「ヤバいやつだろうな、親父さんの盛塩で防げる程度ではあるが」


 どうにかして、さっさと体を見つけないといけない。

 僕は影と頷きあってから風呂敷を解いて、生首を引き出しの上に置いた。


「とにかく対価は払った。『縁を可視化する薬』を使ってみよう」


 影が小瓶を取り出した。

 瓶の中では、透明な液体がちゃぷんと揺れた。