数時間かけて、僕と影は野苺とアザミの刺を集めきった。

 『春の庭』は外とは時間の流れが違うから、少しなら遅くなっても大丈夫だ。

 でも外の時間とまったく関係がないわけじゃないから、百合の朝露は朝に来ないといけない。

 僕と影は春の庭の真ん中に向かった。

 真ん中にあるガゼボを覗くと焚き火がチラチラ揺れていて、その向こうでは防人が火かき棒で枯れ葉をつついていた。


「こんばんは」

「おや、また厄介事に巻き込まれているのかい?」

「はい、また」


 僕は少しだけ笑って、火に当たらせてもらった。

 防人はそれ以上は何も言わない。影も黙りこくって僕の後ろで火に合わせて揺れている。

 僕は立てなくなりそうになるまで焚き火を眺めた。


「よし、行こう。お世話になりました」

「行ってらっしゃい」


 防人は頷いた。すぐに火かき棒で焚き火を突くのに戻った。

 目を閉じて九十九数えると、家の近くに戻った。空の色からして、僕が家を出てから一時間も経ってなさそうだ。


「ただいま」

「おかえり」


 帰ったら父さんが出てきた。


「また変なもの持ち込んだだろ」

「……ごめんなさい」

「塩、盛っておきな」

「はあい」


 父さんにもらった盛塩を部屋の前に置いておいた。

 部屋に入ったら生首が元気よく迎えてくれたけど、なんとなく薄くなったように見える。


 ……やっぱり悪霊の類なのかなあ。