「なんの音だ?」


 父さんが二階を見上げた。


「ら、ランドセルが落ちちゃったのかも。見てくるよ」


 食べかけのトーストを置いて、二階に駆け上がった。

 僕の部屋に戻ると、窓に子猫のメトロが張り付いていて、生首が机とベッドの間に落ちていた。


「大丈夫ですか?」

「かたじけない。貴殿への借りが増える一方で申し訳なく思う」

「俺にも申し訳無さそうにしてくれ」


 影が嫌そうにしながら風呂敷で生首を覆ってから持ち上げた。


「飯食ってる途中だったのに」


 僕はその間に窓からメトロを入れた。

 メトロはびしょびしょで震えていて、首に包みがくくられている。

 包みを影に預けてから、僕はメトロを抱えて一階に戻った。


「窓にメトロが張り付いてたよ」

「そんな音だったかな」

「キャットハウスに行きそこねたのかしら。晴れるまでいい子にしてなさいな」


 母さんはメトロを受け取ると風呂に向かう。

 風呂から響くメトロの悲鳴を聞きながら、僕と影は残りの朝ごはんを食べ終えた。

 部屋に戻ると生首は床のクッションで転がってあくびをしていた。


「メトロが持ってきたのは『縁を可視化する薬』だな」


 影がぬるっと起き上がって、小瓶を振った。