屋上への扉は固く閉ざされていたし、テラスへの扉も閉ざされていた。
 よく映画である空の下で感動的な会話を交わすようなシーンは望めないみたいだ。
 それもそうだろう。
 屋上への出入りを自由にしてしまったら、自殺を図る人も少なくないはずだ。

 仕方がないから私は、病院内にある図書室へと足を向けた。
 図書室は少し小さかったけれど、日当たりがよくて暖かなゆっくりとした時間が流れていた。

 本を眺めながら歩いていると、ふと、高校時代を思い出す。

 決して楽だったとは言えないけれど楽しかったあの頃に出会えたかけがえのない人たちは今、どこで何をしているのだろう。
 仲の良かった友人からはメッセージや電話があったけれど、どうしても話す気にはなれなくて、私からそっと距離を置いた。
 自己防衛だと言い訳しながら、ただの現実逃避をしていた当時の自分を、今さらながら恨む。

 あの時に戻れたら今の私は、何を言うだろう。
 現実から目を背けずに、本音を吐き出せるのだろうか。
 きっと、そんな勇気、まだ私には備わっていない。
 仕事をしていてもこんな無様な姿になってしまうのだから。

 そんなことを思いながら、適当に小説を手にとって、近くにあった椅子に座る。
 本当は病室に持っていって読んでもいいのだけど、なんだか戻る気にはなれなくて、明るいこの空間で、静かに読み始めた。

 「涼風さん… ?」

 そう呼びかけられたのはページが半分ほど進んだ頃、おそらく2時間ほど経った頃だ。

 馴染みのない声に顔を上げると、そこには見覚えがあるどころでない、忘れようとしても忘れられない顔があった。

 「想來くん… !」

 想來くんが、何年か前に再会したときと同じように病衣を身につけ、点滴の棒を左手に持って目の前にいた。
 幾分か大人っぽくなり背も伸びていたけれど、その顔は紛れもなく想來くんだった。

 「やっぱり涼風さんだ。
 さっきから似てる人がいるなと思って見てたんだけど。
 すごい偶然だね」

 まるで度々会っているかのような距離感で話しかけてくるものだから、私は少々困惑してしまう。

 「う、うん」

 こんなところで会うのも衝撃だし、何より想來くんが話せていることが衝撃だった。

 「隣、いい ?」

 想來くんは、私の返事も待たずに静かに腰かけ、振り返って窓の外を眺め始めた。

 こんなにマイペースだったっけ?と笑みが漏れそうになる。

 想來くんの横顔はあの頃と何ら変わらなくて、大人になってからも入退院を繰り返しているのか、色白な肌もそのままだった。

 何事もなかったかのように私の隣にいる想來くんは、純粋に振る舞っているのか、気を遣っているのかわからない。
 どちらにしてもそんな想來くんを騙すような真似をしてあそこを離れた自分が情けなく、恥ずかしかった。
 手紙だけで終わらせようなんて考えが甘かった。
 父の死に目に会えなくても、彼にはきちんとお別れをすべきだった。
 そうじゃないと私は一生前に進めないままなのに。
 別れと再会を何度も繰り返して、私はひとつも前に進めていない。
 進んでもすぐに後戻りしてしまう。

 だから、今、隣で静かに佇んでいる彼は、私の人生に欠かせない人なのかもしれない。
 いつしかそうやって人生から目を逸らして、映画のような運命を期待してしまう。
 まったく、馬鹿だな、私は。