救急搬送されてから約2週間が経つ。
2日ほど前、ようやく一般病棟に戻ってきて少しずつ快調に向かっていた。
「想來、おはよう。
また来ちゃった」
朝の診察が終わった直後、母さんがドアを開けて入ってきた。
「おはよう。
別に来なくていいって言ったのに」
「だって心配なの。
それに、お世話してくれる人がいないとあんたも困るでしょ。
最近は特に体調不安定なんだから」
「今日は調子いいよ。
なんだかいつもよりは体が軽い」
「それならよかった」
休職中とはいえ、休み中ずっと病院というのは気が引ける。
せめて退院できるくらいには回復して、好きなことを好きな場所で存分にしたい。
病院だと少なからず気は張るし、行動が制限されてしまう。
「あ、そうだ。
ちょっと提案があるんだけどね」
母さんがベッド横の丸椅子に座りながらそう言った。
「なに ?」
「退院したら一回実家に帰ってこない ?」
「え、なんで ?」
突然のことで、身構えていなかったのもあって、瞬間的にそう聞いてしまった。
だが、きっと母さんの答えはひとつだ。
「だって、一人暮らしだと、今回みたいなことがあったとき心配だし、必ずしも助けを呼べる状態であるかは分からないでしょ ?」
やっぱり「心配」だった。
母さんみたいな人は、自分よりも他人のことばかり優先する。
僕がいたらどれだけ大変になるかがわかっていない。
「いや、でも」
「それにね」
反論しようと思ったのに、母さんが被せるように言ってくる。
「それにね、先生に言われたんだけど、自然に触れるのも治療法のひとつだって。
やっぱり地元に戻ってきた方が心も安らぐしさ」
母さんの言い分は最もだ。
でも、母さんには母さんの人生があって、息子がひとり立ちした今だからこそできないこともある。
「別にそんなのいいよ。
帰ったって何もすることないし、それならここにいたって同じだろ ?」
「だから、心配なんだって」
「迷惑かけるわけにはいかないよ」
「迷惑なんかじゃないよ。
あんたは私の息子なんだもん。
迷惑になんか思うわけないでしょ」
母さんは一向に引く様子がない。
だが、僕にも引く気はない。
「母さんはわかってないんだよ、僕がいたらどれだけ大変か」
「は ?
いまさら何言ってんの。
想來が一人暮らしするまで一緒に住んでたんだよ ?」
「違う。
今はもう大人だからって言ってるの。
母さん、僕が倒れたって運べないしそれだったらここにいたって変わらない。
僕は戻らないよ」
僕の意思は固かった。
これは、一人暮らしを始めるときに決めたことだった。
これ以上、母さんに迷惑はかけない。
「なんで、そんなに意地張るの ?
素直に甘えればいいじゃん」
「意地とかそういう話じゃないから。
母さんには母さんの人生を楽しんでほしいんだよ。
僕なんかの存在で無駄にしてほしくないんだ」
「なにそれ。
あんたの存在で無駄になるわけないよ。
逆に想來がいたから楽しめたんだよ ?」
「うざいよ」
不意に、口から突いて出た言葉だった。
自分でも驚くくらいに無意識に、ポロッと出た、チクチク言葉。
「は ?」
「そういうの、ほんとにうざい。
僕の存在で楽しめたわけないだろ ?
そういう綺麗事ばっか言うのやめてよ。
僕が一番わかってるんだよ。
母さんと父さんの離婚の理由も、母さんがたまにふらっと倒れてた理由も」
「それとこれとは関係ない。
想來のせいじゃないよ」
「もういいんだって !
母さんは僕から解放されていいんだよ。
もう、いいから」
そう言って、病室を出た。
立った途端にふらっとしたけど、あの空間で平然としていられる自信が一ミリもない。
こんな話題でこんなに口論になるとは思っていなかった。
こんなんで、意地を張ってしまう自分が情けなかった。
それなのに、僕のなにかが受け入れることを拒否していた。
2日ほど前、ようやく一般病棟に戻ってきて少しずつ快調に向かっていた。
「想來、おはよう。
また来ちゃった」
朝の診察が終わった直後、母さんがドアを開けて入ってきた。
「おはよう。
別に来なくていいって言ったのに」
「だって心配なの。
それに、お世話してくれる人がいないとあんたも困るでしょ。
最近は特に体調不安定なんだから」
「今日は調子いいよ。
なんだかいつもよりは体が軽い」
「それならよかった」
休職中とはいえ、休み中ずっと病院というのは気が引ける。
せめて退院できるくらいには回復して、好きなことを好きな場所で存分にしたい。
病院だと少なからず気は張るし、行動が制限されてしまう。
「あ、そうだ。
ちょっと提案があるんだけどね」
母さんがベッド横の丸椅子に座りながらそう言った。
「なに ?」
「退院したら一回実家に帰ってこない ?」
「え、なんで ?」
突然のことで、身構えていなかったのもあって、瞬間的にそう聞いてしまった。
だが、きっと母さんの答えはひとつだ。
「だって、一人暮らしだと、今回みたいなことがあったとき心配だし、必ずしも助けを呼べる状態であるかは分からないでしょ ?」
やっぱり「心配」だった。
母さんみたいな人は、自分よりも他人のことばかり優先する。
僕がいたらどれだけ大変になるかがわかっていない。
「いや、でも」
「それにね」
反論しようと思ったのに、母さんが被せるように言ってくる。
「それにね、先生に言われたんだけど、自然に触れるのも治療法のひとつだって。
やっぱり地元に戻ってきた方が心も安らぐしさ」
母さんの言い分は最もだ。
でも、母さんには母さんの人生があって、息子がひとり立ちした今だからこそできないこともある。
「別にそんなのいいよ。
帰ったって何もすることないし、それならここにいたって同じだろ ?」
「だから、心配なんだって」
「迷惑かけるわけにはいかないよ」
「迷惑なんかじゃないよ。
あんたは私の息子なんだもん。
迷惑になんか思うわけないでしょ」
母さんは一向に引く様子がない。
だが、僕にも引く気はない。
「母さんはわかってないんだよ、僕がいたらどれだけ大変か」
「は ?
いまさら何言ってんの。
想來が一人暮らしするまで一緒に住んでたんだよ ?」
「違う。
今はもう大人だからって言ってるの。
母さん、僕が倒れたって運べないしそれだったらここにいたって変わらない。
僕は戻らないよ」
僕の意思は固かった。
これは、一人暮らしを始めるときに決めたことだった。
これ以上、母さんに迷惑はかけない。
「なんで、そんなに意地張るの ?
素直に甘えればいいじゃん」
「意地とかそういう話じゃないから。
母さんには母さんの人生を楽しんでほしいんだよ。
僕なんかの存在で無駄にしてほしくないんだ」
「なにそれ。
あんたの存在で無駄になるわけないよ。
逆に想來がいたから楽しめたんだよ ?」
「うざいよ」
不意に、口から突いて出た言葉だった。
自分でも驚くくらいに無意識に、ポロッと出た、チクチク言葉。
「は ?」
「そういうの、ほんとにうざい。
僕の存在で楽しめたわけないだろ ?
そういう綺麗事ばっか言うのやめてよ。
僕が一番わかってるんだよ。
母さんと父さんの離婚の理由も、母さんがたまにふらっと倒れてた理由も」
「それとこれとは関係ない。
想來のせいじゃないよ」
「もういいんだって !
母さんは僕から解放されていいんだよ。
もう、いいから」
そう言って、病室を出た。
立った途端にふらっとしたけど、あの空間で平然としていられる自信が一ミリもない。
こんな話題でこんなに口論になるとは思っていなかった。
こんなんで、意地を張ってしまう自分が情けなかった。
それなのに、僕のなにかが受け入れることを拒否していた。
