主治医に休職するということを知らせると、「それはいい」ととても賛同してくれた。
 ストレスなどで病状が悪化している場合は休職することも治療のひとつだと、先生が教えてくれた。

 「休職を機に、ゆっくり休むといい。
 仕事を任せてしまっているなんて考えずに、治療の一部として考えると気が楽だよ」

 最近、また少し多くなってしまった定期通院のとき、先生がそう言ってくれた。
 実際、先生は副作用(眠気、吐き気、倦怠感など)のある薬も出すようになって、おかげで僕は少し複雑な気分になっている。

 一気に症状が悪化したのは、休職してから1カ月後くらいのことだった。
 この日は、朝から調子が悪く、腕に着けている血圧計も危ない数値を指していた。
 心房細動を抑える薬を飲み、ご飯も食べずに横になった。

 こういうことは不安定な時期によくあることで、寝れば治ることも少なくなかった。
 今回もそのパターンだと油断していたわけだ。

 息苦しさで目を覚ました時にはもう遅かった。
 視界はぐにゃぐにゃと歪み、とても歩ける状態ではない。
 それでもなんとか這って、スマホを取り、119番にかける。

 『119番消防です。
 火事ですか、救急ですか?』

 「きゅう、きゅう、です。
 持病、持ってて」

 『わかりました。
 お名前と救急車を送らせる住所を教えてください』

 「はい。
 椎名、想來、です。
 住所は」

 とぎれとぎれに住所を述べた。

 『今はおひとりですか?』

 「はい」

 『現在の症状を詳しくお話できます?』

 「えっと、たぶん、心房細動。
 朝から、調子、悪くて、治るかな、とも、思ったん、ですけど」

 うまく呼吸ができなくて、手足が痺れてくる。
 スマホが手から滑り落ちて、体中から力が抜けていった。

 『シイナさん、大丈夫ですか?
 意識があれば、スマホを叩いてください』

 弱々しく動く手で、軽く叩いた。

 いつもの恐怖が押し寄せてくる。
 死ぬ怖さと、また目覚める怖さ。

 『もうすぐ救急車来ますからね』

 電話の向こうでは絶えず、声をかけてくれている。
 その声が遠のいて、ドアが開く音がする。

 なんで開けられるんだろうと考えて、管理人の声がしたところで意識がなくなった。

 そうか、管理人に鍵を借りたのか。