インターホンを押しても応答はない。
桐原さんは慣れた手つきで大家さんから借りた鍵でドアを開けた。
開いたドアの向こう側には見たこともないほど壮絶な景色が広がっていた。
様々な種類のゴミがあちこちに散らかり、積みあがっている。
もはや踏まないようにするのも不可能だ。
玄関で靴を脱ぎ、できる限り踏まないように気をつけて歩いていく。
その頃には既に怒鳴り声が聞こえ、子供の泣き叫ぶ声も聞こえていた。
怒鳴り声はおそらく父親によるもので、子供の声は小学校高学年か中学生の女の子によるものだ。
心臓の音は周りに聞こえてしまうのではないかと思うほどに大きい。
遠くからパトカーの音が近づいてくる。
おそらく、水野さんが警察も呼んでくれたのだろう。
「涼風さん。
絶対に父親には近づかないでね。
刃物を持っている可能性もある。
私たちの手に負えないようだったら警察に任せる。
それだけは約束して、いい ?」
「はい」
桐原さんは真剣な眼差しで頷くと、ドアをノックした。
「高垣さん。
お邪魔しています、児童相談所の者です。
近所の方から通報がありました。
入ってもよろしいでしょうか」
「うるせえ !」
怒声が耳をつんざく。
父の声が蘇る。
『黙れ !
俺に反抗すんじゃねえ !』
もういないはずなのに、ドアの向こうに父がいる気がして、一気に恐怖が押し寄せる。
「入りますよ」
引き留めるより先に颯爽と私の横を通り抜けていく。
「入ってくんな !
出てけ !」
桐原さんの影が私の横で止まった。
あわてて顔の向きを変えると、刃物を持った男の姿が目に入る。
ソファを隔てた向こうには中学生くらいの女の子の姿がある。
「お父さん、落ち着いて。
いったん、それ置きましょう」
ゆっくりとした口調で桐原さんが話しかける。
父の顔が、刃物を持った男の顔に重なった。
醜く歪んで、私を攻撃してくる。
近づいてくるはずないのに、どんどん距離が縮まって、私を殺そうとしてくる。
「やめて」
一歩後ずさった。
それでも、私の頭の中の父が私を追いかけてくる。
どこまでも、いつまでも。
「来ないで。
助けて」
そのとき、背後で扉が開かれた。
驚きで後ろへ転んだ私の真横を制服を着た警察官が通り抜けていく。
「刃物を置きなさい」
警察官が言った言葉が、防音ガラスの向こうから聞こえてくるようにごわごわとした声に変わって耳に響いた。
もう大丈夫だ。
そう思うのに、恐怖は治まらない。
自然と涙が溢れ出て、呼吸が浅く、荒くなった。
「涼風さん、大丈夫!?」
桐原さんが走り寄ってくるのが、微かに見えた。
『偽善者が』
なぜか、この言葉が、最後に鼓膜を貫いた。
桐原さんは慣れた手つきで大家さんから借りた鍵でドアを開けた。
開いたドアの向こう側には見たこともないほど壮絶な景色が広がっていた。
様々な種類のゴミがあちこちに散らかり、積みあがっている。
もはや踏まないようにするのも不可能だ。
玄関で靴を脱ぎ、できる限り踏まないように気をつけて歩いていく。
その頃には既に怒鳴り声が聞こえ、子供の泣き叫ぶ声も聞こえていた。
怒鳴り声はおそらく父親によるもので、子供の声は小学校高学年か中学生の女の子によるものだ。
心臓の音は周りに聞こえてしまうのではないかと思うほどに大きい。
遠くからパトカーの音が近づいてくる。
おそらく、水野さんが警察も呼んでくれたのだろう。
「涼風さん。
絶対に父親には近づかないでね。
刃物を持っている可能性もある。
私たちの手に負えないようだったら警察に任せる。
それだけは約束して、いい ?」
「はい」
桐原さんは真剣な眼差しで頷くと、ドアをノックした。
「高垣さん。
お邪魔しています、児童相談所の者です。
近所の方から通報がありました。
入ってもよろしいでしょうか」
「うるせえ !」
怒声が耳をつんざく。
父の声が蘇る。
『黙れ !
俺に反抗すんじゃねえ !』
もういないはずなのに、ドアの向こうに父がいる気がして、一気に恐怖が押し寄せる。
「入りますよ」
引き留めるより先に颯爽と私の横を通り抜けていく。
「入ってくんな !
出てけ !」
桐原さんの影が私の横で止まった。
あわてて顔の向きを変えると、刃物を持った男の姿が目に入る。
ソファを隔てた向こうには中学生くらいの女の子の姿がある。
「お父さん、落ち着いて。
いったん、それ置きましょう」
ゆっくりとした口調で桐原さんが話しかける。
父の顔が、刃物を持った男の顔に重なった。
醜く歪んで、私を攻撃してくる。
近づいてくるはずないのに、どんどん距離が縮まって、私を殺そうとしてくる。
「やめて」
一歩後ずさった。
それでも、私の頭の中の父が私を追いかけてくる。
どこまでも、いつまでも。
「来ないで。
助けて」
そのとき、背後で扉が開かれた。
驚きで後ろへ転んだ私の真横を制服を着た警察官が通り抜けていく。
「刃物を置きなさい」
警察官が言った言葉が、防音ガラスの向こうから聞こえてくるようにごわごわとした声に変わって耳に響いた。
もう大丈夫だ。
そう思うのに、恐怖は治まらない。
自然と涙が溢れ出て、呼吸が浅く、荒くなった。
「涼風さん、大丈夫!?」
桐原さんが走り寄ってくるのが、微かに見えた。
『偽善者が』
なぜか、この言葉が、最後に鼓膜を貫いた。
