現場に出向き、幼き子供とともに怯えている母親を見ると、母の顔が脳裏をかすめる。
 決して鮮明ではない、あの穏やかそうな顔が。
 私の母は、怖がっているのに苦しんでいるのに素直にSOSを出せない、この若い母親たちと同じだったのだろうか。

 父はなぜ私たちをあんなにも雑に扱っていたのだろう。
 それなのに、なぜ母を撥ねた運転手を殺したんだろう。
 もう一生解けぬ問いが常に私の片隅にあった。

 父はどういう気持ちだったんだろうか。
 私が生まれたとき、父の頭の中にはどんな未来が広がっていたのだろう。
 私たちに暴力を振るっていたとき、私は父にとってどんな存在だったんだろうか。
 運転手を殺したとき、少しでも父は私の顔を思い浮かべてくれてたんだろうか。

 父のことは、私には想像もつかない。
 きっと、父の中には父なりの考えがあって、葛藤があって、苦しみがあったんだろう。
 想像したくもないし、想像しちゃだめだと思った。
 もうわからないからこそ、自分の中の想像で終わらせちゃいけない。

 第一、そんな過去に囚われている場合ではない。
 私がやるべきなのは、児童相談員として子供を守ること。
 そして、時にはその子の親も守ること。

 経験者だからこそ、できることがある。
 経験者にしかわからない、できないことがある。