僕にとって涼風さんは、生きる希望だった。
 生きる理由だった。
 生きていて楽しいと思える、光だった。

 突然いなくなってしまった彼女は、どんな大学に行ったのだろう。
 どんなところに住んでいて、どんな仕事をしているのだろう。
 今、幸せだろうか。

 高校一年生の冬。
 終わりごろ。
 僕は、心不全を患った。
 入院は半年間に及び、その間に僕の周りは色々と変わった。

 入院している間、僕はどこかで彼女の姿をさがしていた。
 窓の外に彼女が現れてくれるんじゃないかって。
 あの時みたいに。
 あの時みたいに、僕に生きる理由をくれるんじゃないかって。

 しかしそんなことあるわけもなく、僕は通信制高校へ編入し、世界にはコロナウイルスが広まった。

 通信制高校へ入学したことで、よく勉強ができるようになった。
 リモート授業は気が楽で、治療での副作用もあったけれど社会に出ても苦にならない程度には学を蓄えられた。

 コロナウイルスが広まったことで、何もかもが変わった。
 世の中が一変したと言っても過言ではないくらいに。
 病院では家族の面会すらもできなくなり、マスクは必須になった。

 このまま、もう戻ることはないのかもしれない。
 僕の体も、この世も。

 完治はしなかったものの退院できた日は、どれほど世界が明るく見えたことか。
 あんなにも外に出られて嬉しかったときなど、これまでもこれからもないと思う。
 でも同時に、世の中の変わりようにもおののいた。
 外出自粛、学校や会社も休み。

 あり得ないほどに行動を制限され、退院してからも生活はあまり変わらなかった。

 その頃、決まって見る夢があった。


 夕陽が射す図書室で、目の前にいる涼風さん。

 『またいつか会おうね』

 そう一言残して、席を立って行ってしまう。
 僕は、追いかけようとするけれど、足が動かない。
 いや、厳密にいえば、足が遅すぎた。

 涼風さんの背中はすぐに離れていき、やがて見えなくなった。

 ダメだ、行かないで。
 戻ってきて。

 声が出ない。
 心臓がバクバクして、呼吸が荒くなる。


 起きたときには汗だくだった。
 怖い夢を見ているわけでも、危ない夢を見ているわけでもないのに、涙が出た。

 こんな夢を見るのは小説や映画の中だけだと思っていた。
 見るたび、涼風さんへの想いが強くなっていって、会いたいと思ってしまった。

 涼風さん、今、どこにいるんだよ。