エンドロール

 憶那(おくりな)。
 心の中で眠っているもう戻らない大切な思い出。

 いつか、どこかで見たこの言葉は、私の心の奥底に沈んでいる。
 あの頃の思い出とともに。

 あの日、何も言わずに引っ越してしまったのは、たまらなく申し訳なく思う。
 想來くんの家の前で30分ほど逡巡して、ついに勇気が出ず、手紙をポストに投函しただけになってしまった。

 父が倒れたと連絡をもらったのはその日の前日だった。
 中学生の頃にお世話になった叔母が連絡をくれた。
 叔母にはもう一度父と話すことを伝えていて、父の住所やら電話番号やらはすべて叔母に教えてもらっていた。


 「もしもし、瑞輝 ?
 お父さんが倒れた。
 今、私も病院に向かっているんだけど、結構深刻そうで。
 お引っ越し、明日に早めることってできる ?」

 夕方、緊迫した叔母の声がスマホを通して、聞こえた。

 「うん、できる」

 引っ越し先への荷物の運搬はすでに済ませてあったから、あとは私が行けばいいだけだった。

 「それなら、いつでもいいから、明日来て。
 病院の詳しい住所は送るから」

 なぜ、あんな奴の見舞いに行かなければならないのかと、思わないでもなかった。
 別に、死んでしまってもいいと正直、思っていたから。

 でも、そんなことしたら、想來くんにも、先生にも顔向けできない気がした。
 父と、きちんと話さなければ、私の人生は、後悔で埋めつくされてしまう。

 「わかった」

 それから、一晩かけて、想來くんへの手紙を書いた。
 正直に伝えようともした。
 すべてを事細かに告白できたら、どれだけ気が楽だっただろう。
 直接、すべてを話せたら、どれだけよかっただろう。

 でもそんな勇気、出るわけもなく結局、手紙で、しかも最後は会わないという最悪の別れをしてしまった。

 「でも」が重なり、手紙の結びは、「また、再会できますように」というありきたりな言葉になってしまった。
 こんな願い事、七夕であっても、許されるわけない。
 私に、こんな贅沢な願い事をする資格なんてない。