エンドロール

 病院から帰る途中、駅で涼風さんを見た気がした。

 この前の検査で異常が見つかって一時的に入院した帰りだった。
 荷物も多かったし、人混みでもあったから、追いかけることはできなかった。

 でも、きっと、彼女も気づいていたと思う。
 目が合った。
 そんな気がする。

 家に帰って荷物を整理している間も、さっきの涼風さんの顔が浮かんで消えなかった。
 いつしか、涼風さんらしき人は、涼風さんとして、僕の脳が理解していた。

 「元気そうだったな」

 つい、独りごちた。

 窓を開けて、外の空気を思い切り吸い込む。
 頭がすっきりとして、入院で強張っていた体もほぐれていく。

 診断結果は、細菌感染だった。
 細菌感染は、時に重病を呼び起こすらしいが、今回は軽症だったようだ。

 僕の病気は治ることも十分にあるのだが、僕の場合はなかなか完治に苦戦している。
 元から病弱なこともあって、治りそうでもタイミング悪く悪化してしまう。

 長期入院をして治療に専念することもできるのだが、僕は希望していなかった。
 僕にとって病気は相棒みたいなもので、もう慣れてしまった。
 そりゃ、治る方が絶対にいいのだが、入院してまで治そうとは思えなかった。

 先生も、母も、僕の意見を尊重してくれている。

 ただし、命に関わるような症状が出たときには絶対に治療すると、母には約束していた。
 それだけは、何を言っても母は譲ってくれないだろう。
 まあ、僕も死にたいわけないから、いざとなったら治療する方を選ぶと思うが。

 スマホを操作して、もうつながらなくなってしまった涼風さんとのトークルームを開いた。
 こんなもの残しておいても未練たらたらの気持ち悪い人だと思われてしまうかもしれない。

 それでも、どうしても消すことはできなかった。
 特に見ることもなかったけれど、消すなんて、僕には到底できない。

 そんな勇気がない。

 いつか、また、会えるだろうか。

 なぜ、あの時間に、あの駅にいたのだろう。
 涼風さんも何らかの仕事に就いているはずだ。

 あそこで、何をしていたのだろうか。
 どこの駅から乗ったのだろう。

 考えるほど、疑問があふれ出る。

 「今、どうしてるかな」

 涼風さんの、髪が伸びた、あの姿が、瞼の裏に焼き付いている。