エンドロール

 1週間も経つと、仕事にも慣れてきた。
 とはいっても、兄弟姉妹がいたわけでもないから子供の扱いはまだまだ素人だ。
 親の気持ちなんてもっとわからないから、巡回も注意も手探り状態で、慣れてきたのは電話のとり方と事務仕事くらいである。
 これが、慣れたというのかもわからない。

 電話が鳴った。

 「はい、笹垣児童相談所です。
 どうされました ?」

 いつも目の前に座っている男性、北条さんにとられてしまうが、今回は一足先に対応することができた。

 「子供の泣き叫ぶ声と、大人の怒鳴り声。
 時折、物が壊れる音ですね。
 それは、いつ頃からでしょうか ?」

 物が壊れる音。
 その言葉で、所内の空気が強張る。

 「ついさっきから」

 『あ、でも、たまに聞こえるんです。
 今日は、特に酷くて』

 通報者の声が、耳を刺激する。

 怖かった。
 この仕事をし始めてから、明らかに虐待を疑う事案は今回が初めてだった。

 「わかりました。
 ご通報ありがとうございます」

 受話器を置く。
 重苦しい空気が頭痛をもたらす。

 「たまにあるそうです。
 今日は特に酷い、と。
 虐待を疑うべきだと思います」

 「そうだね。

 じゃあ、桐原さんと北条くん、行ってもらえる ?
 なんかあったらすぐ連絡して。
 必要とあらば、僕も出向く。
 涼風さんはここで待機しといて」

 志村さんがてきぱきと指示を出した。

 一人前になると、決めたはずなのに、待機の指示で安堵している自分がいた。
 こんなんじゃ、絶対ダメなのに。

 やっぱり、私には向いていないのかもしれない。

 昔の傷が疼く。
 過去の記憶が、瞼の裏に蘇った。