エンドロール

 そろそろ7月に入ろうとしていた。
 中間テストも終わり、本格的な夏が始まろうとしていた。

 「想來くんさ、私いなくても大丈夫 ?」

 いつものように図書室で昼食をとっている時、不意に涼風さんが聞いてきた。

 『大丈夫じゃないって言ったらどうする ?』

 冗談めかしてそう送ってみる。
 でも、あながちすべてが冗談というわけでもなかった。

 「え、このまま」

 『ほんと ?』

 「ごめん、嘘」

 本当に申し訳なさそな顔をして謝ってくるので、こちらまで真剣な表情になってしまう。

 「ごめん、こういうときにこういう嘘、よくないよね。
 めっちゃ悪いことした」

 『いや、別に、怒ってるわけじゃないし
 そんな謝らないで』

 沈黙が漂う。
 気まずさはないけれど、心地いい沈黙ではない。

 「でも、ほんとに大丈夫 ?
 こんなこと聞いても、私、どうしようもできないけど、やっぱり心配」

 『大丈夫。
 涼風さんに頼ってばっかりもいられないし』

 「そっか。
 なら、その言葉、信じるよ」

 柔らかい微笑みを投げ掛けてきて、頬がポッと熱くなる気がした。
 本当に大丈夫だろうか。

 彼女がいなくても、僕は生きていけるのだろうか。
 絶望の海に落ちやしないだろうか。
 目の前が真っ暗になったりしないだろうか。

 「大丈夫なわけないの、わかってるから」

 しばらく黙って何を話題にしようか考えていたとき、不意に涼風さんが言った。

 「想來くん、私いなくなったら、きっともっと弱くなると思うよ。
 あ、別に、想來くんを悪く言ってるとかじゃなくて、自惚れてるわけでもなくて、真剣に、そう思ってる。
 たぶん、耐えられなくなるんじゃないかな」

 少しムッとしてしまった。
 信じると言ったくせに、何一つ信じていないその言葉に、不覚にも苛立ってしまった。

 「でも、想來くんだけじゃないってこと、わかっててほしい」

 『え ?』

 涼風さんはただ淡々とお弁当の中身を口に運んでいる。
 それが、照れ隠しなのか、はたまた無意識なのかは僕にもよくわからない。

 「私だってさ、寂しいよ。
 今は、平気な顔してるけど、十分、寂しいし、悲しい。
 想來くんと離れ離れになっちゃうのも、陽乃たちと離れ離れになるのも悲しい。
 でも、思ったんだよね、そんなこと思ってたってどうしようもないって。
 私は、ここから出てかなきゃならないし、お父さんと向き合わなきゃならない。
 みんなとは違う。
 それは、もうきっと抗えないから、諦めるしかないから。
 大丈夫って思わなきゃダメなんだよ。
 それじゃないと、耐えられないからさ」

 少しも悲しそうじゃない口調で話し続けていて、全部、嘘を言っているんじゃないかと疑うほどだった。
 でも、言い終わったあと、顔を上げた涼風さんの顔を見て、そんな疑いが一瞬にしてなくなった。

 「想來くんは大丈夫。
 私も大丈夫」

 悲しさに歪んだ顔で、彼女が言う。

 「きっと、いつか、全部大丈夫になって、また会える」