エンドロール

 「もしもーし、想來くん?」

 初めての電話が来たのは、学校が終わってからだった。
 涼風さんが来ていなくて、すごく心配していたのに電話口から聞こえる彼女の声は至って元気だった。

 「初めての電話だね。
 ちょっとあれかなって思ったんだけど、ラインの画面に通話履歴残しときたくて」

 涼風さんらしい理由に自然と口角が上がる。

 「今日さ、時間あったら、堤防来て。
 見たいものある」

 一方的にそう言って、通話は切れた。
 僕が何も言えないのは当たり前だけど、僕が普通に話せていたとしても、きっと口を挟めなかっただろう。

 それにしても見たいものってなんだろう?

 すぐに着信を知らせるバイブレーションが鳴った。

 『あ、夜ね。
 きっとお母さんに心配されちゃうだろうから、20時くらいには解散予定。
 18時くらい集合でいい?』

 ドラマみたいな感じで電話を寄こしてきて、意気揚々と話して、すぐに切って肝心なことを言い忘れるなんて、お茶目すぎて笑いそうになった。

 『うん』


 最近は日が暮れるのが遅くなってきて、18時になっても、街はオレンジ色に輝いていた。

 「あ、想來くん!
 こっちだよ」

 堤防までぶらぶらと歩いていると、海岸の方から声がした。

 『堤防じゃなかったんだね』

 「うん、ずっと堤防に座ってばっかだと、飽きてきちゃって。
 たまには砂浜でね」

 オーバーオールに身を包んだ涼風さんはいつになく子供っぽくて、椿輝ちゃんを連想させた。

 『それで、見たいものって?』

 隣に座りながら、そう聞いた。

 彼女との距離は近いわけでもないのに、無駄に心臓がどきどきする。

 「まあまあ、そう焦らないで。
 たぶん、もうすぐ。
 日が暮れたら」

 その、倒置法のような言い方が、なぜか僕の心をぐっとつかむ。

 日が暮れたら、なに?
 行かないでよ。
 まだ、ここにいて。

 「沈まないね。
 やっぱり、ちょっと厳しいかな。
 ここから出て行くまでに想來くんと見たかったんだけどな」

 海の向こうに沈みそうになっている太陽を見ながら、涼風さんがそう言った。
 さすがに眩しくて、目を細めている。

 「ねえ、何?
 そんなに見つめられてたら、照れちゃう」

 そう言われて、慌てて目を離した。
 海に浮かぶ、向こうの街を眺める。

 山の輪郭がもっこりと浮き出ていて、街の影を無造作に打ち消している。

 「嘘。
 見つめてていいよ。
 私のこと、見れる時間なんてもうないよ」

 わかってたことなのに、わかりきってたことなのに、驚いて、彼女を見る。

 また、寂しそうな顔をしている。
 隣に僕がいるのに、悲しそうな顔をして、太陽を眺めている。

 「7月になったら、もう、ここから出て行く」