エンドロール

 青春なんて縁遠いものだと思っていた。
 僕の世界に青春なんて言葉、存在しないものだと思っていた。

 でも、涼風さんと街に出かけたり、映画を見たりしているうちに、青春が、こんなにも近いものだったんだって知った。

 話せなくても、病気を患っていても、普通じゃなくても、当たり前のことができるんだと知った。


 『明日はさ、図書室で勉強しようよ。
 高校生らしく放課後勉強』

 メッセージの文面を見て、少し頬が緩む。
 完全に涼風さん主導になった僕たちの青春作戦は、順調に進んでいるっぽかった。

 『いいね。
 勉強教えてね』

 以前は、敬語交じりだったメッセージも今ではずいぶんと友達っぽくなったと思う。
 さすがにハートを送ったり、絵文字を送ったりするのはできないけれど。


 「想來くん。
 早いね」

 日直だったらしい涼風さんは少し遅れてきた。
 もう半袖になっていて驚いたけど、周りの目を気にせず一番にやってのけてしまうのが涼風さんらしくて嬉しいような変な気持ちになってしまう。

 『何勉強する?』

 「うーん、数学?
 でもさ、想來くん。
 私たちのこれってあくまで青春するためであってガチで勉強する気はないんだよ?
 ドラマであるように時々見つめあいながら、夕陽に照らされて勉強するみたいなのが目的なわけ」

 『なにそれ』

 彼女の口調に声を出して笑いそうになる。

 「まあいいや。
 人少ないし、ちょっとおしゃべりしながら緩くやろ」

 ペンケースと参考書を出して、涼風さんは形だけの勉強準備を始める。

 「想來くんはさ、死にたいって思ったことある?」

 『え?』

 あまりに唐突すぎて瞬間的に涼風さんの顔を見る。

 言葉の意味が瞬時に理解できない。

 「いや、別に真剣な話ではなくてよ。
 世間話として、というか、なんとなく気になっただけ。
 嫌だったら答えなくていいよ。
 忘れて」

 『ある』

 そう言ったものの涼風さんの表情は見れない。

 「それは、どうして?」

 『嫌になったから』

 羨ましい。
 ずるい。
 なんで僕だけ?
 あの子は違うのに。
 みんなできてていいな。

 そんな感情に飲み込まれることに嫌気が差した。

 『なんでも比べたがる世の中に疲れたから。
 勉強とか、運動とか、できる人の方が偉いみたいな風潮に疲れて、嫌になったから。

 いつの間にか、僕もそういう風潮の中にいて、僕より下の人を探して、下の人がいたら安心する。
 そんな自分にも嫌になったから。

 結局死ぬなんて度胸、なかったけどね』

 「そっか。
 まあ、生きてりゃそう思うこともあるよね」

 こんな、意味深なことをぐちゃぐちゃと書いて送ったにも関わらず涼風さんの口調は至って平然としていた。

 『涼風さんは?
 ある?
 死にたいと思ったこと』

 「ないよ。
 今はすごく幸せ」

 「今はすごく幸せ」な涼風さんのその言葉の裏に、どんな苦痛が潜んでいるのかなんて想像がつかなかった。

 憂蒼椿輝の頃、どれだけ死にたいと願っていたか。
 そんなの全然わからなかったし、わかりたくもなかったし、わかってしまってもダメな気がした。