「想來くん。
 ごめん、私、もう想來くんと一緒にいられない」

 そうやって想來くんに言ったのは小学3年生の夏の日。
 夏浅し、向日葵の花が良く似合う、真黄色の太陽が出た晴れた日。

 「え ?」

 「ごめんね、いつか一緒になろうって言ったのに」

 声が震えた。
 全部全部、あいつのせい。
 あと、私のせい。

 「どうして、どうしてそんなこと言うの ?」

 「私、ここにいられなくなっちゃったの。
 永遠なんてないのに、変な約束しちゃってごめん。
 またね」

 別れが辛くて、想來くんと離れるなんて寂しすぎて、私は、想來くんを突き放した。

 「なんで」を繰り返す、まだ話せた頃の想來くんを突き放して、想來くんと別れた。

 「椿輝ちゃん。
 待って」

 「離して !」

 必死で腕を掴んでくる彼の手を振り払った。

 「もう、一緒いられないの !
 わかってよ。
 私のこと、困らせないでよ。
 想來くんのこと、嫌いになりたくないの。
 もう、行かせてよ」

 よく恋愛ドラマであるような、嫌いだとか、一緒にいたくないだとか言って突き放すやり方はできなかった。
 どうしても、想來くんのことを嫌いなんて、言えなかった。

 あんなことなかったら私は、きっと幸せになれたのに。


 「椿輝 !
 危ない !」

 何が起こったのか分からなかった。

 母に手を引っ張られて引き戻された直後、前を見ると大きなトラックが停車していた。

 「お母さん ?」

 擦りむいた手の痛さも忘れて立ち上がる。

 「お母さん !」

 大量の血が、目の前に広がっていた。
 あの光景はしばらく夢に出てきて、おちおち夜も眠れないほどになった。

 周りに人が集まってくる。
 電話する音が聞こえる。
 救急車の音が聞こえる。

 母が、車に乗せられて、私も一緒に乗せられて、誰かが母の胸を蘇生して、誰かが母の胸を蘇生するのをやめた。

 病院にある部屋で、白い布をかけられた母を父が泣いて抱いた。

 全てが一瞬で過ぎ去って、私はそのままどこかに預けられた。
 どこかは覚えていない。

 そして、父が人殺しになった。

 ちょうどPTSDと診断された日。

 ここから別の場所へ行こうと決めた日。

 その日、父はトラックの運転手を殺した。
 どうやって殺したのかは知らない。
 知りたくもない。

 ただ、ただ、母を死なせた人が憎かったんだと思う。


 そして、事故から1ヶ月後、私は想來くんと別れた。
 
 目まぐるしく過ぎてゆく日々の中で、自分を変えようと、別人になろうと決めた。