きみのとなりは春のにおい

 
やがて、電車が駅に着き、ドアが開く。


 
人の流れの中、ひよりはそっと宙の横顔を見つめた。


(名前で呼ばれただけで、あんなに胸があたたかくなるのに。どうしてこの気持ちは、それだけじゃ足りなくなっていくんだろう)


 
──そのときだった。


 
ふいに、宙が優しい声で言った。


「ひよりも、学校のこと忙しいと思うけど……無理しないでね」


 
その一言が、心の奥にやさしく届く。


 

たったそれだけなのに、張りつめていた気持ちが、ふっとゆるんでいくのがわかった。


「……うん。ありがとう」


 
名前を呼んでくれるだけで、明日も頑張れる気がする。


 
くすぐったくて、ちょっと切なくて。

 


それでも、ちゃんと温かくて。



 
そのやさしさが、今日もひよりの胸の中に、じんわりと染み込んでいった。