きみのとなりは春のにおい




(だれか……たすけて)



声にならない声を、心の中で絞り出した――そのとき。


「……ちょっと、すみません」


低くて、よく通る声が耳に届いた。


(……この声、知ってる)


まるで、夢みたいに。
だけど確かに、聞き覚えのある声だった。


「何してるんですか。手、どけてもらえます?」


視線を上げると、すぐ隣にいた。
星条学園の制服を着た男子生徒。


前髪が少し乱れていて、目は鋭いのに、どこか冷静で。
彼は、誰かをまっすぐににらんでいた。


「駅員に連絡しましょうか?……俺、今見たこと、話しますよ」


その一言に、車内がざわついた。



男は無言で舌打ちし、次の駅で逃げるように降りていった。