きみのとなりは春のにおい

 
図書カフェを出ると、街の空気はすっかり夕焼け色に染まっていた。


 
ビルの影が伸び、遠くで聞こえる車の音も、なんだかいつもよりゆっくりに感じる。


 
春風がふわりと通り抜ける中、ひよりと宙は並んで歩いていた。


 
「……なんだか、時間があっという間だったね」


 
ひよりのつぶやきに、宙は横でうなずいた。


「うん。静かで落ち着けたし……スイーツも美味いし、いい時間だった」


「図書カフェ、気に入ってくれてよかった」


 
ひよりは少しうつむきながらも、ふっと笑みを浮かべる。



その頬が、ほんのり赤く染まっていた。


 
少しの沈黙が流れる。だけど、不思議と気まずさはなくて。


 

むしろその静けさすら、心地よく感じられた。


 
駅へ向かう道の途中。


 

自然と歩幅がそろっていることに気づいて、ひよりの胸がじんわりあたたかくなる。


(さっきよりも……ほんの少し、近づけた気がする)


そんなふうに思っていたときだった。