きみのとなりは春のにおい

 カフェを出ると、外の風がほんのり甘い余韻を運んでくるようだった。

ひよりはバッグをぎゅっと握りしめ、宙の隣を歩いている。


午後のやわらかな陽射しが制服の袖に触れて、少しだけあたたかい。
駅へ向かう道は人もまばらで、沈黙の時間も気まずくはなかった。


けれどひよりの胸の中は、落ち着かずそわそわしていた。


(楽しかった……また一緒にどこか行けたらいいな)


甘いものでもいいし、今度は違う場所でも。でも、それを自分から言う勇気はまだ出せない。


(変に思われたらどうしよう。図々しいって思われたり……)


そんな考えが喉の奥に小さな言葉を詰まらせていた。


「……」


(“また今度”って言いたい。言いたいけど──)