きみのとなりは春のにおい


「……ちょっと暗かったけど、これ。あとで思い出になるかなって」


スマホの画面を見せながら、少し恥ずかしそうに笑うひより。


「なると思うよ。むしろ、タルト食べ終わってから看板撮ったって話の方が、ちゃんと記憶に残るかも」

「やっぱり……変かな、私」

「ううん、すごくいいと思う。……桜庭さんって、そういうとこなんていうか、」


(かわいい)


その言葉を飲み込む。


宙はほんの少し視線を外した。


本音を口に出すのが恥ずかしいように、言葉を選んで──


「……面白いなって思う。いい意味で」

「え、それって……褒めてるの?」

「褒めてる、褒めてる」

ひよりは笑って、でもその笑顔の中にほんのり赤みが差していた。


スマホをそっとバッグにしまう仕草にも、まだ余韻が残っている。


(この子と一緒にいると、なんだか気が抜ける)


飾らない笑顔と、不器用でまっすぐなところ。


ただタルトを食べて、写真を撮り忘れて、慌ててメニューの写真を撮った──そんな何気ない出来事が、彼の中で特別な思い出になっていく。


(……また、どこかに連れてってあげたいな)


そう自然に思えた。