きみのとなりは春のにおい


彼が降りるのは、ひよりより二駅前。




そこには、いくつかの高校がある。
でも、制服の感じからして──


「星条(せいじょう)学園……かな」



電車の中で、そっとスマホを開いて検索する。
紺のブレザーに、青いネクタイ。画面に表示された制服。



──あ、やっぱり。


間違いない。


胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。


星条学園の生徒。
学年はわからないけど、大人っぽかったし──先輩なのかもしれない。


たった一度の、偶然の出会い。
それでも。



もしあと少しだけ、勇気が出せたら。
名前を、知ることができるのかな。


今の私は、それを聞けるほど強くない。



でも──



毎朝、同じ電車に乗っている限り。
ほんの少しだけでも、距離を縮められたらいいな。
そんなことを願ってしまう自分がいた。