きみのとなりは春のにおい

「……桜庭さん?」


名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。
宙くんが首をかしげて、じっとこっちを見ていた。


「なんか、ぼーっとしてた?」

「あっ……ごめんなさい。ちょっと考えごと、してただけで」

「なにか、悩んでる?」

「ううん、大丈夫。ほんとに、ちょっとだけだから」


それ以上は聞かず、宙くんは「そっか」とだけ言って、優しく笑った。


その笑顔が、また少し照れたようで──でも、あたたかかった。


(……モテるの、絶対間違いない)


だけど今この瞬間、宙くんと向き合って、おしゃべりして、笑い合って、
スイーツを分かち合っているのは、私。


(……それが、嬉しい……)


ふと見ると、宙くんの口元に小さなクリームがついていた。