きみのとなりは春のにおい

「……うん、これ、ほんとにおいしい」


フォークでチョコタルトをすくって口に運ぶ。

ほどよい甘さと、ふわっと広がるカカオの香りが、ゆっくりと心まで満たしてくれるようだった。


窓際の席、向かいに座る宙くんは、季節限定の桃パフェにスプーンを伸ばしていた。


いつもより少し柔らかい表情で、制服姿のまま、肩の力を抜いた顔。 


朝の電車で見る姿とは違って、年相応の男の子らしさが見え隠れしている。


「そっちも、おいしそうだね」

「うん。こういうの、放課後に食べるのって新鮮……ちょっと、特別な感じ」


気がつけば、会話は自然と続いていた。


緊張していたはずなのに、居心地がいいと思える時間。


けれどふと、妙な気配に気づいて、周囲に視線を向けた。


──なんとなく、見られている気がする。