きみのとなりは春のにおい

店内の窓際の席に通され、宙は迷いなく「季節限定・桃のパフェセット」を注文。



ひよりは「ミニチョコタルトと紅茶」を頼んで、そっと宙の横顔を盗み見る。  


(なんか……普段の落ち着いた感じとちがう……)


運ばれてきたパフェを見て、宙の目がわずかに輝いた気がした。


「うわ……これ、想像以上にうまそう」

「ふふ……すごい嬉しそう」

「ん。こういうの見ると、テンション上がる。疲れてても、一口食べればふっと軽くなるっていうか」

「……うん、わかるかも。そういうの」


チョコタルトにフォークを入れながら、ひよりはふと思う。


──こんなふうに、好きな人と甘いものを食べながら過ごす時間って、なんだか不思議と安心する。


知らなかった宙の一面。


でもそれを、今日知れたことが、嬉しかった。


(……もっと知りたい)


この人が、どんなことに笑って、どんな日常を過ごしているのか。


もっと近くで、ちゃんと見てみたい。


カップの中の紅茶の香りに包まれながら、
ひよりの胸の奥に、そっと新しい気持ちが芽吹いていくのを感じていた。