きみのとなりは春のにおい

待ち合わせは、駅前。


制服のままの宙は、ちょっと照れたような笑みを浮かべて立っていた。


「“お礼したい”って言われたのに、連れ回すみたいで悪いんだけど……行ってみたい場所があって」

「え、全然!むしろうれしいです。……どこ行くんですか?」


「……着いたらわかるよ」



そう言って、先を歩きはじめた宙の背中を見つめながら、ひよりは静かにそのあとを追う。



歩くこと、10分ほど。



「えっ……ここ?」


目の前にあったのは、白い壁に花の飾りとピンクの看板。



ショーウィンドウには、華やかなケーキやパフェの写真が並び、店内は女性客でほとんど埋まっている。


「……ここって」

「うん。俺、けっこう甘党なんだよね」


さらっと言ったそのひと言に、ひよりは目を丸くした。


「……甘党……?」

「がっつり。ショートケーキもパンケーキもチョコもアイスも好き。甘いの全部」

「……うそ、意外……」

「だよね。でも、こういうお店って一人じゃ入りにくくて。気になってた店、今日が初挑戦」


照れくさそうに肩をすくめて笑う宙を見て、ひよりもつられて笑ってしまう。


「だから来てもらえて助かった。“助けてくれたお礼”、ってことでさ」

「え、むしろそれ、私にとってご褒美かも……」

「じゃあこれで、おあいこ?」


イタズラっぽく笑うその顔がまぶしくて、ひよりの胸の奥がふわっとあたたかくなった。