きみのとなりは春のにおい

窓の外には、どこか夏の気配をまとった淡い空が広がっていた。


ひよりはノートにペンを走らせながら、ふとあることを思い出す。



──そういえば…宙くんに、ちゃんとお礼できてないかもしれない。


入学式の日。
あの満員電車で、倒れそうになった自分を支えてくれたこと。


痴漢から守ってくれたこと。


電車で、転ばないように、手を引いてくれたこと。


キャンディをくれたこと。


ひとつ、ひとつ宙の優しさを思い出す。
「ありがとう」とは言ったけど、それだけだった気がする。


(もっと……ちゃんと、伝えたいな)