きみのとなりは春のにおい


放課後。


他のクラスメイトが帰った後の教室。


窓から差し込む夕陽が、机の上にオレンジ色の光を落としていた。



参考書とノートが広げられたその間で、話題は完全に“勉強”から逸れていた。


「──で! どうだったの!? 連絡先、ちゃんと交換できた!?」



まゆが勢いよく前のめりになって、ひよりの顔をのぞき込む。


「朝からずっと気になってたんだからね? 『聞けたかな〜』って、ずっと話してたんだよね」



しおりも、メガネの奥の目を輝かせてうなずく。


ひよりはちょっと照れくさそうに笑って、机に頬を乗せた。


「……うん。ちゃんと、できたよ」

「っっしゃあああああ!!」


「やった〜〜!! ひよりえらい〜!」


まゆがバンザイしながら机を叩き、しおりもポンポンと静かに拍手。



ひよりは「そんな大げさにしなくても……」と苦笑しながらも、頬がついゆるんでしまう。


「で? どうやって聞いたの? どこで? 何て言ったの?」


「気になる〜! あと宙くんの反応も教えて!」


畳みかけるような質問に、ひよりは小さく笑ってから、机の角を指先でなぞりながらぽつりと話し出す。


「朝、駅のホームで……電車が来て、乗ったら宙くんもいて。目が合って、向こうが気づいてくれて……」


「うんうん」


「少し話した後、“よかったら、連絡先、交換してくれませんか”って。そしたら宙くんが"いいよ。俺も聞こうかなって思ってた"って言ってくれて。」


しおりとまゆが目を見合わせ、次の瞬間、ぱあっと笑顔をはじけさせた。


「え!!むしろ、向こうも聞こうかなって思ってくれてたんだ!?
これは、ぜったい、脈ありだよ!!
も〜〜よくやった!!頑張ったね、ひより〜!」


「というか、ここまで来たら、マジで告白5秒前って感じ」

「2人とも、応援してくれてありがとう…。ほんと、緊張した…。」


ひよりは顔を赤くしながら、制服の袖をきゅっと握りしめる。



じわじわと耳まで熱くなっていくのが、自分でもわかった。